一方、ユーロ圏では18カ国の財政当局の合意が必要であるため、金融緩和と財政拡張のコーディネーションを日本のように機動的に導入することは難しい。オランド仏大統領ら南欧の指導者たちはドラギの先の発言に喜んだが、ドイツのメルケル首相とショイブレ財務大臣は「どういうつもりか?」とドラギに電話をかけた。

 ただし、ドラギが政策コーディネーションの必要性を主張したとはいっても、注意が必要な点がある。国の借金の水準が日本と欧州ではまるで次元が異なるのだ。

 IMF(国際通貨基金)の推計では、日本の一般政府債務(グロス)の対GDP比は今年244%だ。ユーロ圏は73%である。米国の106%、英国の92%よりもユーロ圏ははるかに健全だ。

 また、ドラギは、ユーロ圏の安定成長協定の基準である「単年度の財政赤字はGDP比3%以内、政府債務残高はGDP比60%未満」の精神を損ねない範囲の柔軟化を示唆している。日本のような大規模なヘリコプターマネー散布を狙っているのではない。

 さらに、日本では第1の矢、第2の矢が放たれてから、「さて第3の矢(構造改革)をどうしよう」と議論が開始された。他方、ドラギは9月4日の記者会見で、「野心的で、重要で、強固な構造改革を伴わなければ、財政政策も金融政策も効果をもたらさない。重要なポイントは構造改革の実行だ」と強調した。実際、南欧がよりしっかりと構造改革に取り組まないと、ドイツは財政緊縮の柔軟化を了承しないだろう。

「ドラギが成長のために財政を緩めるべきと言っているのだから、日本も消費税引き上げを遅らせるべきでは?」とは安易に言えない違いが存在するといえる。

(東短リサーチ取締役 加藤 出)