“銀の弾丸”。狼男を倒せる唯一にして最強の弾丸がそれだという言い伝えが欧州にはある。

 「マイナス金利政策は、デンマーク経済にとっての“銀の弾丸”だったかって? いや、そんなことはなかった」。同国のダンスケ銀行チーフアナリストはそう語った(米「ニューヨーク・タイムズ」6月3日)。この4月までの2年弱、デンマーク国立銀行は同政策を行ったが、それは特効薬ではなかったという認識を彼は示した。

 ECBは同国の様子をよく観察していたのに、6月5日にマイナス金利政策を採用した。これにより金融機関がECBに超過準備を預けると、0.1%の金利を支払わなければならない。欧州では南欧の中小企業向け貸出金利の高止まりが問題となっている。ドイツとは2%前後の開きがあるようだ。マイナス金利を嫌がって南欧の銀行が余剰資金を中小企業に貸し出すようになればよいが、そういった効果は(デンマークでもそうだったが)期待しづらい。

 現代の金融規制下では、銀行は体力(資本力)を高めないと、リスクのある貸出は増やせない。マイナス金利は銀行の体力を逆に弱める恐れがある。マイナス幅が大きいと、銀行はコストを顧客に転嫁し始めるだろう(口座管理料の徴収や貸出金利引き上げなど)。

 そうした弊害が顕在化しないように、ECBはマイナス幅を0.1%と最小幅に設定した。それでもマイナス金利を始めたのは、ユーロ高対策としての為替市場への心理効果を狙った面が強い。

 今回、ECBは期間4年程度の資金供給オペも決定した。この低利の資金を利用して南欧の銀行が収益力を高め、それによって彼らの体力が多少高まれば、結果的に貸出が増加するかもしれないとECBは期待している。