本当に喜ぶべきことなのか?
明暗分かれる円安・株高の影響
ざっと1年停滞し膠着していた為替レートと株価が、円安・株高方向に抜けてきた。一足先に動いたドル・円の為替レートは109円台をつけて、110円台をうかがう勢いだ。やや反応が鈍かった観のある株価も、先週末の終値は1万6321円と、6年10ヵ月ぶりの高値に達した。
アベノミクスは、金融緩和による円安・株高を手段として、デフレからの脱却を目指す政策であり、この基本構造に大きな変化はない。失業率が下がって、労働市場の弱者層の雇用と賃金が改善してきたことは大きな成果だし、目指す「マイルドなインフレ」に向けた歩みの一過程である。
基本的に、円安・株高が好ましいことについて、現段階で筆者には異論がない。
しかし、これらは本当に喜ぶべきことなのかという疑問の声が、あちらこちらから上がって来るようになった。特に為替レートについては、その声が大きい。
もともとアベノミクスの初期から、主婦視聴者の多い情報バラエティ番組などでは、「円安になって、燃料をはじめとする輸入品の価格が上がっています。生活者にとって、アベノミクスは本当にプラスなのでしょうか?」といった問題意識が存在した。
ここに来て、経済界の一部からも円安に対する警戒の声が出て来た。たとえば、日本商工会議所の三村明夫会頭は、11日に行った記者会見で、「あまり大きな円安は今の段階では望ましくない。ちょっと行き過ぎだと思う」と述べ、円安の進行に懸念を示した(注:当時のドルレートは107円台)。
もともと、為替レートの変動に対する損得は、国内で明暗が分かれる構造にある。輸出に関わる企業は円安を好み、輸入に関わる企業は円高の方がコストが下がる。この差の存在は致し方ない。