介護について労働力確保が深刻な問題であると、本連載の第10回、第14回で述べた。医療は介護よりさらに多くの労働力を必要とするので、今後の需要増に応えられるか否かが大きな問題となる。医療従事者の賃金は、医師以外は経済全体の平均賃金に比べて高いとは言えないので、人員の確保は容易でない。以下では、その実態を分析することとする。
製造業が縮小し、
医療・福祉が拡大する
まず、総務省、労働力調査「第12回改定日本標準産業分類別就業者」の数字を見よう。
「医療、福祉」の就業者数は、2014年8月で753万人である。製造業の就業者1036万人の約4分の3だ。
このように、医療・福祉部門は、就業者数において、製造業とさほど変わらぬウエイトを持つ産業になっている。ただし、そうなったのは、比較的最近のことだ。
02年1月における就業者数は、製造業1210万人に対して医療・福祉は462万人であり、製造業のウエイトが圧倒的に大きかった。その後現在に至るまでに、製造業の就業者が約200万人減り、医療・福祉の就業者数が約300万人増えたわけだ。就業者総数に対する比率で見ると、02年1月には、製造業が19.3%、医療・福祉が7.4%であった。それが14年8月では16.3%と11.8%になっている。このように「製造業が縮小し、医療・福祉が拡大する」というのが、日本の就業構造の長期的なトレンドにおけるもっとも重要な点である。
いま一つ注目されるのは、経済全体に対する医療・福祉分野の比率は、GDPで見ると、就業者数で見た場合より低くなることだ。内閣府「医療・介護に係る長期推計」によれば、医療・介護費用の対GDP比は、11年において9.8%であり、先に見た就業者数でのウエイト(11.8%)より低い。これは、医療・福祉分野での生産性が、経済全体の平均に比べて低いことを示唆している。ただし、この問題を考える際には、「医療・福祉分野」の範囲について、以下に述べるような注意が必要である。