医療は地産地消が大事
「ビジネス」に必須な二つの条件

北原 ほかにもイギリスが南アフリカの看護師を引き抜いたということもありました。南アフリカは国費で育成した看護師を奪われてしまったのです。では南アフリカはどうしたかというと、アンゴラから看護師を奪ったんです。

国民総背番号制に賛成する医師が、<br />外国人看護師の受け入れに反対するわけ

ちきりん 次々と、より貧しい国から労働力を連れてくるという連鎖。製造業や建設業で起こったことが、医療でも起こっているんですね!

北原 そうです。そして、アンゴラを医療面から支援したのがキューバでした。だから、国連においてアンゴラは絶対的にキューバを支持しています。キューバが世界64か国に対して医療支援しているのは、そういう理由があるのです。アメリカやイギリスの例でわかっていることを日本がするとなれば、相手国の医療を壊してもいいと思っているのと同じです。

ちきりん 現代の帝国主義のようなものだと……。

北原 医療を通じた植民地主義に手を染めるということです。これをやると必ず報いがきます。それはなにかというと、もしフィリピン人やインドネシア人が日本の看護や介護を担うことになれば、これから増大するであろう高齢者たちが払う医療費や介護費が、彼らの手を通じて海外に流出します。つまり、団塊の世代の方々が亡くなるまでに、日本の富の多くが失われることになる。

ちきりん そのお金は、日本の医療従事者たちに落とすべきだろうということですね。

北原 人のことを考えないと、必ず報いがくるということです。同じことが患者の奪い合いにも言えます。医療が儲からないなら、中国の富裕層を連れてきて儲けてしまえという発想がありますよね。しかし、これをやると貧しい人ばかりを見なければいけなくなる中国の病院の経営が悪化します。医療は地産地消で国民が国民の面倒を見られる状態が幸せだと思います。

ちきりん たいへん興味深いです。今やビジネスの世界では、人や物を世界中どこでも、最適なところに移動するのがよしとされています。先生のお話は、多くの場合、市場原理を活用することへの賛意が多いと感じますが、今の話はどちらかといえばそれとは対極にある。アンチグローバリゼーションの方達が言っていることと似ている主張だなと思いました。

北原 私の考える「ビジネス」の条件は、一つは儲かること。儲からなければ永続性が保てないからです。もう一つは世のため人のためになるかどうか。この二つを満たしていないものは、ビジネスとして成立しないと思っています。ですから、医療は「ビジネス」を目指すべきなんです。