北原 プライバシーの問題を指摘する声もありますが、私個人は知られてはいけない情報はありません。それに勝るメリットがあると思っています。

ちきりん 病気になったことがないと、「自分の病気の情報が外に流れるのは嫌だ」と考えがちですけど、大きな病気になってみると、過去に同じ病気になった人はどんな治療を受けていて、その人が治った比率はどれくらいなのか、この薬でアレルギー症状が出た人はどのような人なのか、などのデータが手に入ることのメリットは、身にしみてわかります。ところが今は、学会での発表や、狭い医局内での情報交換ルートでしかデータが回っていなくて、情報化時代の恩恵をまったく受けられていません。

北原 まったくその通りです。そうなっていることの理由の一つに、保険システムがあると私は思っています。なぜなら、病院のIT化が進まないのは、IT化に関してお金が出ないからなんです。電子カルテを導入しても保険報酬があがるわけではないので、導入するモチベーションが高まらない。病院のIT化に関しては、日本は世界でも遅れをとっています。韓国の足元にも及びません。

ちきりん なるほど。病院のIT化が進まない理由も保険制度にあるわけですね。ところで最近は、看護師や介護士としてフィリピンやインドネシアから人を受け入れようという話が出てきています。団塊世代が後期高齢者になる次の10年くらいで、なし崩し的に受け入れることになりそうですが、この件については、どのように思われますか?

北原 やってはいけないことだと思います。なぜかというと、看護・介護についてはあくまでも国内問題だからです。これを解決するために海外の人を頼ると、いくつかの問題が起こります。まず、フィリピンやインドネシアの医療が壊れます。フィリピンではこの10年間で1700あった民間病院が1000に減っています。看護師がアメリカなどに奪われているからです。給料が高いし、免許も言葉も通じるので、皆が行きたがるんです。しかし、医者は免許が通じないので海外に出られません。

ちきりん グローバリゼーションによって、医療現場が荒廃しつつある国があると……。

北原 だから、看護師免許を取ってアメリカに渡るフィリピンの医者が出てきたそうです。そのほうが高い給料をもらえるのだから仕方ありませんよね。

ちきりん すごい話ですね。ちょっとびっくりです。