10月3週目は世界の金融市場が大荒れとなった。その翌週に米国へ出張したところ、ニューヨークの空港の入国審査官は皆、青いゴムの手袋をはめていた。

 空港関係者に聞いたところ、エボラウイルス対策とのことだった。審査官はパスポートを直接触らないように防御している。一方、彼らは入国者に、指紋の写真撮影のため10本の指をパネルに押し付けるよう命じる。前の人々の手の脂でかなり汚れている。こういうときはなんとなく気持ちが悪い。

 日本から来た人には体温のチェックはなかったが、西アフリカからの乗り継ぎが多い、欧州のハブ空港からの便に対しては行われているそうだ。テレビ、新聞、雑誌もエボラのニュースを盛んに報じていた。米国の航空会社の業績はデルタ航空のように、第3四半期は実は好調だった。コストの3分の1を占める燃料価格が大きく下落していることなどが寄与したからだ。ところが、エボラ要因で航空会社の株価は低迷気味だ。

 とはいえ、ニューヨークの場合、街中の人々の多くが神経質になっているわけではない。市場関係者も経済にとってのエボラリスクを警戒しつつも、今気になっているのは、FRB(連邦準備制度理事会)の先行きの政策に影響を与えるインフレの動向だ。

 10月16日にブラード・セントルイス連銀総裁は、インフレ連動債から計測した市場のインフレ予想が急低下しているので、量的緩和策第3弾(QE3)の終了を先延ばしする方がよいと語った。

 しかし、FRBウォッチャーの間では、国民の長期インフレ予想を測る各種サーベイはまだ下落していないので、イエレンFRB議長は今月でQE3を終えるだろう、という見方が主流だ。ただし、前年比+2%程度でとどまっている賃金の伸び率が高まる時期については、強気の見通しはまだ少ない。

 米国では賃金が毎年+3~3.5%程度上昇しないと、FRBがインフレ率を目標の+2%に維持できない。賃金が伸びるには、前向きな転職が活発化してくる必要がある。従来は人材の引き抜きのため、あるいはそれを食い止めるために賃上げが行われていた。