英国の5月の消費者物価指数(CPI)は前年比+3.3%の上昇となった。政府が決めているインフレ目標(+2%)の許容上限(+3%)を超えたため、イングランド銀行のキング総裁はダーリング財務大臣に弁明の書簡を送った。

 インフレ上昇の主因は農産物と原油の価格高騰にある。今年後半にインフレ率は4%を超える見通しだという。しかし、今後12ヵ月以内にインフレ率を目標範囲内に戻そうとして利上げを行なうことは、経済に不必要な変動をもたらす、と総裁は説明した。しばらく様子見でいく方針が示された。

 気になるのは、英国民のイングランド銀行への信頼が急速に悪化している点である。6月12日に公表されたアンケート結果では、同銀行のインフレ制御に対する英国民の満足度は、1999年11月の調査開始以来最悪となった。

 5月の英国の食品価格の上昇は前年比+7.8%だった(飲料を除くと+8.7%)。ユーロ圏の+5.7%、米国の+5.1%より高い(国によって食品の定義は一部異なる)。日本の4月の食品は+2%だった。その日本でこれだけ不満が出ている。英国民の多くは、生活実感としては、石油関連価格の上昇と合わせて、物価に強い不満を抱いていると思われる。

 ところで、エネルギー関連や食品などを除いた5月のインフレ率は、英国+1.5%、ユーロ圏+1.7%、米国+2.3%とまだ過熱していない(日本の4月は▲0.1%)。政策決定者としては、どの数値に着目すべきか悩ましい局面である。

 FRBのコーン副議長は6月11日に次のように述べた。「私が使っているモデルでは、インフレを牽引する最も重要なものは、相対価格のショック、インフレ期待、国内の需要と供給のバランスだ」。

 原油などの相対価格が著しく変化した場合は、長期インフレ期待の動きに注意が必要だという。夏場などの早い時期に利上げを行なう意図はFRBにはない模様だが、ミシガン大学/ロイターによる調査で長期インフレ期待が高まっていることを彼らは警戒している。

 一方、ダーリング財務大臣は前述のキング総裁からの書簡への返信で、70~80年代に比べればインフレはまだ穏やかであり、インフレ率が3%を超え続けても、9月までは弁明の書簡はいらないと寛大な態度を総裁に示した。

 確かに、イングランド銀行が金利を引き上げたところで、世界的な原油、穀物価格の高騰は沈静化しない。しかし、英国民の長期インフレ期待が上昇しないように、適切なメッセージを発し続けることは英当局に必要と思われる。

(東短リサーチ取締役 加藤 出)