日本文化に内在する強み
グローバルでの事業推進のいっそうのテコ入れのために、自社の管理会計ないしKPI管理の再構築を志向する企業が増えてきている。一方で、特にトップマネジメントには、KPI管理に対する抵抗感も強い。下手なKPI管理の導入は、自社の組織文化を破壊するリスクがあるからだ。それでは、日本企業として守るべき組織文化とは一体何か?
結論を先に申し上げる。守るべき組織文化は主に3つである(図1)。
第1に、現場を重視する文化。これは、日本の伝統ある商社であれば「どぶ板営業で若手を教育する」という施策、メーカーであれば「現地、現物、現実の3現主義」という施策として、連綿と守られてきている基本的な文化である。組織文化の2つ目は、他社を含む他者との連携を重視する文化である。日本文化の下では他者との連携チャンスが放置・野放しにされることはない。「もったいない」状況に置かれた資産・人は有効活用するという行動特性が、日本人であれば常識として共有されている。
以上2点を筆者があえて取り上げる理由は、この2つの日本文化が、海外において日本企業のライバルとなっている欧米その他企業が暗黙に前提にしている文化との決定的差別化をもたらす、固有の強みになっているケースが実際に存在しているからである。例えば、JICAが最近発行した「ベトナムODA50年報告」(注1)には次の報告がなされている。「日本の技術協力プロジェクトの特徴として、当該分野の業務に精通した専門家が長期間常駐し業務に従事することで、着実に業務改善につながっていることを評価するベトナム側カウンターパート機関は多い。本調査でインタビューを行った先方政府機関においては他ドナーの協力ではこのような形態はあまり多く見られないとしており、日本の技術協力の特徴であるといえるだろう」(P135)さらに、ベトナムODAプロジェクトに実際に従事してきたJICA勤続40年超のOBから、筆者が直接伺うことができた次のエピソードは強烈である。
ベトナムのある地域にODAで小学校を建てることになった。世界銀行推奨仕様での小学校は、JICA推奨仕様(日本仕様)での小学校の3分の1のコストで建設できることから、ベトナム側も最初は世界銀行仕様での設置をJICAにも求め、JICAも部分的に譲歩して小学校を建設した。小学校完成後しばらくして、比較的強い台風が襲来してしまった。その結果、世界銀行仕様の小学校はすべて吹き飛んでしまい、耐えて残ったのはJICA仕様の小学校だけだった。そして、その小学校は臨時避難所として機能した。
現場重視、連携重視の日本文化に基づくJICAのODAは、このような出来事を通じて時間とともにベトナムの人々から絶大な支持を得ることになる。重要なことは、日本では当たり前である日本文化は、一歩国外に出ると当たり前ではないということ。そして、文化に根ざす部分はライバルは容易に修正できないので、その強みによる差別化は低コストで長持ちするということである。少なくともJICAが日本文化に基づくアプローチでのODAを成功させた地域には、すでに日本企業の成功のための見えない追い風が吹いているのである。これを使わないという手はないであろう。
(注1)『ベトナムにおける我が国ODAのインパクトに係る情報収集・確認調査報告書』(2014年1月、JICA他)