前回、グローバルM&Aにおける失敗の大部分は、子会社に対するガバナンス意識および能力の欠如にあり、ガバナンスを発揮するためには、そのためのプラットフォームが必要であると述べた。では、実際にどういったものが必要なのだろうか。
「任せるけれど見ている」関係と仕組みはできているか?
一言でいえば、「任せるけれど見ている」関係と仕組み作りだ。まず、基本的な株主と経営者との関係を築き、経営者に経営者としての役割を全うさせること。そして、それを動かすプラットフォームを作ること、である。このプラットフォームは、さらに二つに分かれる。企業価値を向上させることを追求した計数系のプラットフォームと、企業理念を貫徹させることを追求した理念系のプラットフォームである。筆者はこれをよく、「左脳系プラットフォーム」と「右脳系プラットフォーム」と呼んでいる。したがって、任せるけれど見ている関係と仕組み作りのコンテンツは、「左脳」と「右脳」、そしてこれらをつなぐ「脳梁」となるべき基本的な株主と経営者との関係、あるいは経営者の役割となる。
今回は「脳梁」を採り上げよう。どんな株主だって、信頼できない経営者に自分の資金を託したりはしない。したがって、ガバナンスの基本にあるのは相互の信頼である。信頼が崩れた関係は大抵揉め事を起こす。買収者と被買収者の関係も同様である。被買収企業の現経営陣に経営を委託するのであれば、信頼を醸成していることが第一。そのためにはトップ同士が嫌というほど濃いコミュニケーションを確立している必要がある。信頼できないのであれば任せることなどできない。
とはいえ、信頼しているのだから細々した契約などは不要、と考えるのは間違っている。信頼は信頼、契約は契約。いつまでに何をやってほしいのか、それに応じた処遇をどのようにするのか、責任と権限はどのようなものなのか、等々。もし、買収した側が「とにかく売上を上げてほしい」と思っているならば、そのような内容で契約を結ぶ必要がある。業績が悪かったら取締役会を開いて解任すればいいから契約では触れない、などと言っても、非常勤で派遣されるにすぎない日本企業側の取締役が、実際にそれを行うのは不可能に近い。逆に、簡単に辞められても困るので、こうした事々を十分に想定して取り決めておく必要がある。
一方、現経営陣を信頼できなかったらどうするか。任せられないのだから入れ替えを考えなければならない。「何とかなる」と思っても、これは絶対に何ともならない。外部登用するにせよ、日本から派遣するにせよ、任せられる人材が必要だ。それが実現できなければ、買収なんて辞めたほうがよい。所詮上手くいかない。