360度評価によって明らかになった
「信頼できない上司」という評価

 取材してみると、Sさんの部下たちは、

「とっつきにくい、距離を置いて付き合いたい」

 というふうにSさんを見ている様子でした。Sさんはそんな部下の気持ちを知っていたようですが、どうして気がついたのでしょうか?それは、社内で取り組んでいる「360度評価」の報告書を読んだからです。

「360度評価」とは、部下が上司の行動を観察して、「できている」「できていない」など、あらゆる角度からその人を評価する仕組みのこと。本来は部下だけでなく、上司や同僚や取引先など含めた多面的な関係者の観察で、適切な人事評価をするための手法です。この会社では、部下から見た上司の評価をするために、この仕組みを取り入れているようです。米国企業の大半ではこの仕組みを導入しており、上司がマネジメントの課題に気づく機会として有効と言われています。

 ただ、国内系で勤務が長かったSさんにとっては初めてのこと。人事部から送られてきた360度評価の報告書によると、

・適切なアドバイスをくれる⇒不十分である
・信頼できる存在である⇒不十分である

 との結果になっていました。報告書を受け取ったときにSさんは、「計算ミスで反対の結果になったに違いない」と思い込むほど、想定外の結果でした。ただ、部下の信頼が得られていないとのエビデンス(証拠)を突き付けられたのは事実。それを何とか受け入れようとしたものの、職場の誰もがわかるほど、落ち込んでしまっていたようです。

 ただ、Sさんがパワハラやモラハラをしていたわけではもちろんありません。むしろ個々の部下と小まめに面談して、的確なアドバイスをしてきたといいます。ときには相談がなくても、「顔色が悪いが大丈夫か」と心配して声をかけ、悩みはないか尋ねることもしばしば。

 ちなみに、このマネジメント方式は前職(国内系)で行っていたものと同じで、ときには「このまま飲みに行こう」と部下の相談を居酒屋で受けることもありました。家族と接するような近い距離感で、部下をマネジメントしてきました。ただ、この距離感が外資系のこの会社では、部下にとって信頼を得られるマネジメント方法ではなかったようです。