社員を管理するから、
イノベーションが起こらない

なんば・ともこ 新潟県生まれ。津田塾大学卒業後、86年、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。ハーバード・ビジネス・スクールでMBA取得。96年、パートナー(役員)に就任。99年、同社を退社してDeNAを設立、代表取締役社長に就任。05年東証マザーズ上場を果たす(07年東証第一部に指定替え)。11年、夫の看病のため社長兼CEOを退任、取締役となる。15年1月横浜DeNAベイスターズオーナに就任。内閣IT戦略本部員、規制改革・民間開放推進会議委員などを歴任。著書に『不格好経営 チームDeNAの挑戦』(日本経済新聞出版社)。

森川 あと、経営者の仕事について『シンプルに考える』で書いたのは、「経営=管理」ではないということです。

南場 うん、そうなんですよねえ。

森川 もはや、コストをかけて大量につくれば価値を創出できる時代ではありません。新しい概念や価値観のほうがずっと大切で。だから、ガチガチに管理するより、ある程度任せて自由にやってもらうほうがイノベーションが生まれやすい時代とも言えるでしょう。管理によっていいものが生まれるのは、過去の話です。

南場 まず、「管理されて嬉しい」なんて誰も思わないじゃない。私、ユーザーを囲い込むって言葉も嫌いです。囲い込まれたいユーザーなんて、いないでしょ?されたくないことをすることに力を注がない方が良いです。

森川 あはは、たしかに(笑)。

南場 社員がモノのように管理されたくないのも同じことですよ。

――とはいっても、すべての組織でそれができるわけではありません。管理が必要ない組織をつくるためには、どうすればいいのでしょうか?

南場 大切なポイントは「最初の10人」です。社風は最初の10人でつくられていて、そこで土台ができれば、人が集まってもそこに馴染んでいくから。

森川 馴染まない人はやめていきますしね。

南場 そう。それで、やるべき「事」に向かって邁進するチームをつくるためには、誰が偉いとか、出世とか、組織上の上下に目が向きそうな人は排除することです。DeNAは最初の10人で上下関係のない、100%目標に邁進する清々しいチームをつくることができた。だから、いまもそういう雰囲気が維持できているんだと思います。あと、組織が大きくなったときは、政治をつくらないことが重要で。

森川 人数が増えると必ず政治が生まれる、と言われますよね。そこはどうやって回避するんですか?

南場 政治は、「この案件を推進したのは誰で、反対したのは誰」という話がだいたいきっかけになるのね。つまり、「誰を向いたらいいのかな」って社員が考え始めるとき。

森川 ああ、なるほど。たしかにそうかもしれません。

南場 だから、議論の結果いったん決まったことに関しては、トップマネジメントの意見の相違は社員に見せません。経営幹部は結構激しい議論をしているし、そこで必ずしも全員が気持ちよく合意するわけではないじゃないですか。

森川 ええ。

南場 でも、一歩会議室から外に出たら、決まったことに対しては全員がサポートする姿勢を見せないといけない。政治を生まないためにも、成功の確率を上げるためにも、マネジメント層が一枚岩となって推進する姿勢をとります。

森川 僕が大切だと思うのは、採用にくわえて「誰に辞めてもらうか」。日本の会社は辞めてもらうことに対して抵抗が強いですが、馴染まない人が組織にいるより袂を分かつほうが、お互いハッピーのはず。なかなか辞めてもらえず、結果的に「追い出し部屋」みたいな形をとるのは不健全だな、と。

南場 いやあ、そうだよねえ。

森川 あと、僕が組織を考えるときに参考にしているのは「軍隊」です。

南場 軍隊?

森川 ビジネスは戦いでもありますから、軍隊の戦法がどう変化しているのかは組織論のお手本になるんです。たとえば、昔の軍隊は世界中で厳格な中央統制でしたが、いまは現場に分権しているんですね。なぜなら、ゲリラ戦が増えているからです。戦場ごとに状況が違うから、中央統制では対応できないんです。つまり、トップダウンの命令ではなく、現場ごとに判断してくれ、と変化してきている。この形をとることで、スピードを格段に上げることに成功したわけです。これってビジネスと近いですよね。

南場 本当だ。すごいね。

森川 ええ。両方とも命がけの世界だからこそ、共通点があるんです。