男女のリスクの取り方が
大きく違うことを証明した実験

 ひとつはハーバード大学のクランスノーらが行った研究である。彼らはパソコンのディスプレイに12の「物体」の写真を提示し、それを一定時間、実験参加者に見せた後、何がどの場所にあったかを尋ねる「記憶テスト」を行った。その結果、女性のほうが男性よりも、ある種の物体については、記憶力が高いことがわかった。

 その物体とは、食べられる植物、果物、貝などだった。これらに共通するのは、狩猟採集時代に、女性が主に行っていた「採集」の獲物だった点だ。人類の歴史の大部分は、狩猟採集生活だった。その中で進化的に女性は、「獲物のあった場所を憶える」という認知能力を発達させてきたのだ、というのが、彼ら研究者の主張だ。

 この点がいかにビジネスに活かせるかについては、まだきちんとした議論はないが、今後いろいろなアイディアにつなげられるかもしれない。

 もうひとつは、南カリフォルニア大学のライトホールらが行った意思決定の実験である。「コンピュータ上で膨らんでいく風船をできるだけ大きくして止める」ゲームを、参加者の男女に行わせるものだ。風船を大きくすればするほど、たくさん報酬がもらえるが、割れてしまうと報酬はもらえない。このゲームは、つまりどの程度利益のためにリスクをとるかを測定するものである。

 参加者は、このゲームを行う直前に、①常温の水か、②氷水に片手を3分間浸ける。やってみればわかるが、氷水に3分間片手をつけておくのは相当辛い。これは、身体的精神的なトラウマにならないようにストレスを与えるために考案されたやり方である。

 氷水に片手つけると、ストレスホルモンと呼ばれる「コルチゾール」が血液に分泌される。この実験では、参加者の唾液を採取して、氷水条件の参加者のコルチゾールのレベルが上がった、つまり「ストレスを感じていた」ことを確認している。

 もうひとつの常温の水に片手をつける条件の参加者は、ストレスを感じない。比較のための条件だ。

 結果は、男女で違っていた。ストレスを感じると、男性はよりリスクを求める意思決定をするのに対して、女性はよりリスクを避ける決定をする傾向にあった。これは良いか悪いかではない。状況によって、ストレス下でリスクをとるべき場合も、リスクを避けるべき場合も存在するはずだ。この性差についての知識があれば、緊急会議での男女での意見の相違を理解したり、誰に意思決定の権限を委ねるべきかを決める際に役立つだろう。

 さらに、これらの意思決定には、脳の「被殻」と「島皮質」と呼ばれる部位が関わっていることがわかった。これらの部位は、ヒトの快楽や嫌悪といった原始的な感情に関わる部分である。ただし、残念ながら男女でこれらの部位がどのように関連して、決定の違いを生み出しているかは、まだわかっていない。

 このように、男女の意思決定や認知についての研究は、徐々に進みつつある。それらの研究結果がいずれ、ダイバーシティ・マネジメントに応用される日も来ると筆者は期待している。