女性社員が放った一言
「社長のセルシオのために働いてるかと思うとアホらしい」

 もう20年近く前のことですが、今でも忘れられない出来事があります。

社員は、平常時は給料に、<br />しんどい時はビジョン・理念についてくる小宮一慶
小宮コンサルタンツ代表

 ある事情があって潰れる直前の会社で研修を行ったことがあります。その会社は、研修の1ヵ月ぐらい前には、それまで40人いた従業員が、解雇されたり自主的に辞めたりするなどして20人ぐらいに減ってしまいました。給与の支払いも遅れ、ボーナスも出ない、いわば“末期的症状”でした。実際、その会社は研修後半月ほどで倒産しました。

 研修では、従業員さんに、「思っていることを話してください」と、ひとりずつ前に出て話してもらいました。そのなかで、新入社員からこの会社に入った入社2年目の女性社員が言った一言を、私は、一生、忘れないだろうと思います。

 彼女は、こう言ったのです。

「社長のセルシオのために働いていると思うと、アホらしくて働けない」

 その女性社員は、社長の私利私欲のために働かされていると感じていたのでしょう。研修後、ほどなくして会社そのものが潰れてしまいましたが、彼女の憤りは察するに余りあります。この話を聞いて、私は、そのときに分かったことがあります。

  「社員は、会社が通常のときには給料についてくる。
 しかし、しんどいときにはビジョンや理念についてくる」

 社員は、平常時は、どんなにイヤな社長がいる会社でも、社風の悪い会社でも自分の生活のために我慢して働きます。すぐに独立したり、転職できる人ばかりではありませんから、会社からノルマを課せられても、社長の志が低くても、どうにか頑張ることができるのです。

 けれども、会社そのものが傾きかけたときには、それでは無理です。お金も十分に払えず、先の見通しも立たない状況です。そんなときこそ、経営者が社会のために貢献する高い志だとか、「お客さまのため、良い商品やサービスを作り続けていこう」という理念やビジョンなどの存在意義が浸透しているかが、社員がついて行こうとするかどうかの最後の拠り所となるのです。