議論のポイントが分かりにくい
安保法案を巡る対立
本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。
どの職場でも、ワーキンググループや○○コミッティー、あるいは審議会といった意思決定機関があり、様々な決定を行う。そういった集団意思決定機関の目的は、組織のために最も良い選択肢を見つけ出すことである。その過程で、意見の対立があれば、議論を尽くし、最良の決定を行おうとする。
この機能は、どんな組織でも同じだ。国会でも、立法の是非を巡って審議が行われ、決定を行う。ご存じのように、ここ数か月、国会では大きな対立が起きている。安保法案についてだ。
国会ばかりではなく、「反戦」を唱える団体も、デモや情報発信を行っている。彼らのロジックは、法案が可決されると「戦争が起こる」「徴兵制が施行される」というものだ。また、民主党をはじめとする野党は「安保法案は憲法違反」であることを根拠に反論している。
これに対し与党は、法案は憲法違反ではないこと、法案は自衛のためであり、戦争や徴兵はない、としている。だがこれらのやりとりについて、国民に分かりやすく説明されているかどうかには疑問がある。実際のところ、安保法案の実態がどのようなもので、野党や市民団体の反対の根拠は、具体的にどこなのかが分かりにくい。どうも感情だけで、是か非かを断じてしまい、議論が尽くされていないように思えてしまう。
実際には、安保法案の具体的な内容について紹介しているサイトも少なくないのだが、それらを読んでもピンと来ない。法案自体の内容が分かりにくいのもあるが、与野党の論戦のポイントがよく分からないのだ。
このように感じているのは筆者だけではないだろう。だが、たぶん議論が進まないのは、法案の複雑さだけが原因ではない。そしてこのように、ある案件の対立があるときに、議論が一向に進まないのは、国会だけの問題ではない、ビジネス場面での意思決定でも、いつも起こっていることだ。
安保法案もそうだが、こういったコンフリクトが起こるときは、感情が表に立ってしまうため、論理的な議論ができにくいことが多い。そして実は、ほとんどの場合、人は論理的に賛成反対を決めているわけではないのだ。