教授によれば、このような香港人アイデンティティを持つ若者から、「本土主義」というナショナリズムが拡大しているという。彼らは、「香港特別区行政長官選挙に親中派のみが立候補できる」という「選挙制度」のみに反対しているのではない。より根本的には、中国共産党の「植民地主義」「全体主義」、そして「反資本主義」への抵抗である。

 教授の「反資本主義」という言葉の意味が気になったので、具体的な説明を求めた。要は、中国大陸の人々の急激な経済成長による、香港への莫大な投資への反発のことであった。地価が急騰し、大学教授の給料でさえ、マンションが買えないという。香港の名物ともいえる高層マンションに住むのは、大陸の金持ちばかりとなっている。共産党幹部によるマネーロンダリングにより、ダーティマネーが広がっているという噂もある。

 また、いわゆる「爆買い」という言葉で表現される大陸の人々の消費行動にも頭を悩まされてきた。市街地では薬局が異様に増加し、大陸の人々で混雑している。香港人が粉ミルクなど生活必需品を入手するのが困難となっている。その一方で、香港社会は、世界一貧富の差が激しいとされている。リッチな人が多い半面で、月収500円という人も少なくない。社会制度をみても、年金制度がなく、高額な民間会社の年金のみであるなど、未整備な面が多々あり、急激に経済成長する大陸への反発につながっている。

 香港の「反資本主義」の具体的な行動は、「中国資本のモノを買わない」「高級マンションを購入しない」「大学内にスーパーはいらない」「スターバックスはいらない」「多国籍企業に入らず、社会的企業、NGOを立ち上げる」などである。つまり「質素倹約」ということで、一見いいことのようだが、筆者は「この行動は香港のためにならない」と、教授に対して指摘した。

 そもそも香港は、英国統治下で「自由民主主義」を基盤として発達し、アジアの「資本主義」の中心地の1つとなってきた。だからこそ、急激な経済成長を続ける大陸の人々が、いわば「超資本主義」で押し寄せてきているのである。それに対して、香港人が質素倹約の穴に引きこもるのは、自らの最大の長所である「資本主義」を捨てて、大陸人の下層階級の地位に自らを貶めることになるのではないかと考えたからである。

 むしろ、香港の人々は、「自由民主主義」を前面に押し出し、日本や欧米、ASEANとともにより自由でオープンな経済活動を展開し、大陸の「超資本主義」を海外の厳しいチェックに晒すことで抑えていくように、行動すべきなのではないだろうか。