2016年3月で東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故からちょうど5年経つ。この間福島は、それを取り巻く世論はどう変わったのか。廃炉作業 の日常を実際に作業員として働きつつルポマンガで描いたマンガ家と、福島生まれの気鋭の社会学者が語り合った。本稿では『週刊ダイヤモンド』12月21日発売号の特集「2016年総予測」に収録しきれなかった対談内容を、3回にわたってお届けする。(聞き手・構成/週刊ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
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――福島を取り巻く世論や言論の状況は、今後どうなっていくのでしょうか。
竜田 もう5年経ってしまうわけですよ。そろそろ、福島をめぐって発せられてきたさまざまな情報や言論を総括する転機なのではないですかね。
「福島には人が住めなくなる」と言っていた人、死者がたくさん出ると言っていた人、たくさんいましたね。誰がなんと言っていたか、実際どうなったかをこのタイミングですべて検証すべき。5年たっても放射線影響による死者は一人も出なかったわけです(*3)。こういう大きな事故が起きた時に、どういう言論や報道が飛び交うかというのを研究することは社会学者としてもやるテーマだと思いますよ。
開沼 本当です。社会学者や宗教学者にもデマの拡散に加担した者がいたのは許しがたいことです。そうした言論が、社会の不安を増幅させたことによる差別構造の拡大の責任と、経済損失規模もはじき出してね。
そもそも、「ザ・フクシマの問題」とは放射能と原発であり、それがなければすべて解決、というように素人さんは考えるが、非常に古い。今は新しい問題があるということを取材できていないだけでしょ。自分の取材力不足と労力をかけていないということを隠すために、白い紙の中にある小さな黒い一点を無理やり拡大して、白い紙が真っ黒であるかのように誇張するわけです。
これは震災前からの話なんですけれど、原発がなければ全部ハッピーと考える人は、ある面で東電や行政に気持ちが絶対的に依存しているわけですよ。だから、結局「巨大で強力なお上」が変わってくれれば社会がハッピーになる、と思っている。この時点ではっきり言って大間違いですよね。依存心が残る限り、お上がどうなろうとも自分たちはそんなにハッピーにならない(笑)。だから自分たちでこれまでお上に委ねたものを取り戻して自立しようぜ、という形にならないと物事は動かないと思うんですね。