累計200万部を突破し、NHKでドラマ化もされた人気経済小説の『ハゲタカ』。いよいよ週刊ダイヤモンド11月7日号(一部地域をのぞき2日発売)より、待望のシリーズ5『シンドローム』の連載が始まる。新シリーズでテーマとなるのは、東日本大震災以降の電力だ。ここでは、ハゲタカの作者である、小説家の真山仁氏による福島第一原発の取材記を紹介したい。
小説家。1962年大阪府生まれ。同志社大学卒業後、新聞記者、フリーライターを経て、2004年に企業買収をめぐる人間ドラマ『ハゲタカ』でデビュー。近刊に『売国』(文藝春秋)、『雨に泣いてる』(幻冬舎)、『ハゲタカ外伝/スパイラル』(ダイヤモンド社)など。
リーマンショック後の米国で大暴れした日本最強の企業買収者・鷲津政彦が次の標的に据えたのは、電力業界だった。
そのためには、私があの場所に足を踏み入れるしかなかった。
6月24日、午前7時過ぎ、私は郡山のホテルを出発し、一路福島県楢葉町のJヴィレッジを目指していた。東日本大震災前のJヴィレッジは、日本サッカー初のナショナルトレーニングセンターを含めた総合複合施設であり、なでしこリーグの東京電力女子サッカー部マリーゼ(2011年休部)のホームスタジアムだった。
11年3月11日に発生した東日本大震災以降、原子力発電所事故対策の、その後は復興(原発廃炉)の拠点になっている。
Jヴィレッジ内で取材後の「内部被ばく」確認をするための線量チェックが行われる。その上で、専用のバスで福島第1原発(1F)に向かう。
事故から4年半以上が経過しても、1F周辺は、放射線量が多く立ち入りが制限されている。Jヴィレッジと1Fをつなぐ国道6号線は除染が済んでいるが、道路沿いの限られた場所以外は、許可を得た者が防護服などを身に着けてしか入れない「帰宅困難区域」だ。国道につながる道には鍵の掛かった鉄柵が設けられている。
当時の感覚を
取り込み
かみしめる
1F到着時「原発というより、大規模な工場にやって来た」というのが第一印象だった。
過去に取材した原発には「要塞」というイメージがあった。人里離れた半島の先に身を隠すように建設された上、入り口の厳重チェックだけで見学者を十分緊張させる物々しさがあった。