佐藤 何人かの従業員の方々の略歴を匿名で掲載したのはなぜでしょうか。

ビュエル 矢部さんが2005年に直面した問題の本質を深く理解するためには、彼のもとで働いているスタッフがどのような方々なのかを理解する必要がある、と思ったからです。どのような職歴なのか、どのぐらいオペレーションの経験があるか、などです。特に2005年当時のテッセイにとっては、それが問題解決のカギを握るだけに、重要なことでした。

 どの企業においても、管理職が一人一人の部下を理解するというのは必要不可欠なことです。テッセイの事例から学んでほしいのは、優れたオペレーションプロセスだけではなく、そのプロセスを可能にしているのは“人間”だということです。

テッセイの従業員の方から説明を受けるバーンスタイン助教授(2014年3月撮影、Courtesy of TESSEI)

バーンスタイン 学生たちに清掃スタッフの方々がどのような人生を経て、テッセイで働くことになったのか知ってほしい、と思いました。ハーバードの学生は、おそらく就職に失敗した、キャリアでつまずいた、というような経験をしたことがないと思います。そのため、東京駅で清掃作業をしている従業員の方々の気持ちを本当の意味で理解するのが難しいのです。

 清掃スタッフというのはこういう人たちだ、と自分たちの経験から判断しないでほしい、と思いました。そこで私たちは、できる限り「事実」をそのまま伝えようと思いました。もちろん、協力していただいた方々にご迷惑がかからないよう、完全に匿名で紹介していますが、これはまぎれもない事実なのです。

 略歴を見れば、従業員の方々が様々な職業を経て、テッセイで働くことになったことが分かります。それは、望んでいた就職先ではなかったかもしれません。恵まれた環境に育っていれば、おそらく別の道を歩んだことでしょう。

 部下がどういう人なのかを理解する。これは特にMBAプログラムの学生にとっては重要なことです。なぜなら、若い彼らは「自分の部下になる人は、自分と同じような環境で育ってきた人だ」と勘違いしてしまいがちだからです。ところが、現実の世界でそのようなことはもちろんありません。実際には「自分とは全く違った環境で育った人」の上司となることのほうが多いのです。

 卒業後、彼らは様々な人々の上司となることになります。テッセイの事例を通じて、部下にやりがいをもって働いてもらうには、一人一人を人間として理解する必要があることを学んでほしいと思いました。

ビュエル そのとおりだと思います。テッセイの問題は、もとをたどれば、従業員一人一人が直面している問題に行きつきます。現場の人々が主体的に解決してくれない限り、問題はなくならないのです。そのために、管理職が「部下がどんな人なのかを理解する」というのは不可欠なことなのです。

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