リスク4.政情不安・民主化プロセス

 今でこそ記憶が薄れてきたが、つい2011年までは、ミャンマーといえば世界の中でも名うての軍事政権国家で、西側諸国からは不気味な危ない国と見られていた。軍事政権が支配し、民主化の闘士であるアウン・サン・スー・チー氏を長年にわたって自宅軟禁を行い、映像ジャーナリストの長井健司氏を銃撃し、少数民族の弾圧を行い、映画『ランボー/最後の戦場』で主人公が軍事政権を相手に戦う舞台になったのがミャンマーだ。この映画が公開されたのは2008年なので、そんなに遠い昔のことではない。

 それが、2011年にテイン・セイン大統領が、民主化や経済改革路線へかじをきり始めたころから、日本をはじめ世界各国で、ミャンマーを東南アジアの未開の市場として、積極的に取り上げ始めた。いわゆるミャンマーブームの始まりだ。「どうせ結局また昔の軍事政権の時代に戻るよ」との世の中の声が強かった中で、その後の3、4年の政治経済改革の流れから、「今回は、本当に改革が進むのかも」との声が一般的になっていった。これが昨今のミャンマーブームの大きな背景にある。そうした中で、一時実施すら懐疑的に思われていた総選挙が2015年11月に実施され、その結果アウン・サン・スー・チー氏率いる野党・国民民主連盟(NLD)が圧勝した。

 今後、そのプロセスが順調に進み、真の民主化と政治的な安定感がもたらされることが期待されるものの、現段階ではどのようにしっかりと実現できるかの予測は難しい。これからの動向次第では、政治的空白が発生し、政治体制が流動化するおそれは否定できない。いまだに軍事クーデターが起こる隣国タイを見ていると、その間隙を突くように、軍部がクーデターを起こす可能性も、あながち否定できない。

 また、ミャンマーの既得権者の中には、現状の改革により外国企業の進出が強まり、国内企業の力の弱体化を憂慮する声も根深くあることも鑑みると、こうした声に押されて、今までの改革の流れがまた逆戻りするリスクも無視できない。