リスク2.法整備の問題

 ミャンマー進出におけるリスクで2番目に多い点が、「法制度が未整備、運用に問題あり」だ。ミャンマーは過去にイギリスの植民地であったことから、基本的に英国の判例法の強い影響を受けてきた。特に、英国のアジアにおける植民地拡大の経緯から、ミャンマーでの植民地行政においては、インド統治で用いられていたインド法典が移植されて、ビルマ法典となっており、今に続く会社法もその当時の内容が多分に残っている。それから現在に至るまで、社会主義時代を経て、その後長らく軍政時代が続く中で、結果として法制度を順守することはそれほど重要視されず2012年の政治経済改革を迎えた。

 従って、経済活動のみならず多くの面での法律が長年改正されずにきたため、現在、極めて大がかりな法律の修正が各分野において行われている。コンプライアンス意識を含め、法制度に対する現地の変化は我々が思っているよりも速いスピードで動いている。

 ミャンマーにおける企業進出関連での法整備における進歩は2012年11月2日に成立した新外国投資法の整備と、2013年1月31日に発表された新外国投資法施行細則だ。この内容については、書籍『実践ミャンマー進出戦略立案マニュアル』の3章に詳細を記載してある。

 一方で、急激に法整備を進めた反動で、個々の法律の間での整合性が取れていないことや、法律の意味が不明瞭なことが散見される。その場合に、その意味を確認するために現地の行政官にヒアリングを行う必要があるのだが、その返答内容が不明瞭だったり、答える人によって返答がまちまちだったりすることが多い。また、こうした法制度における不明瞭さは、汚職の温床になりやすく、許認可が欲しかったり、物事を早く進めたかったりするのであれば、それなりの対価が必要といわんばかりの対応にも直面する。

 このような制度面の不透明さもあり、政府関係者の清廉度については国際的に低い評価を受けている。国際非政府組織トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)が発表した2014年度「腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index/CPI)」では、ミャンマーは世界177ヵ国中156位と極めて低い水準だ。アジアの近隣他国を参考までに記載すると、マレーシア50位、インド85位、フィリピン85位、タイ85位、中国100位、インドネシア107位、ベトナム119位、ラオス145位、カンボジア156位といった具合である(図表1-18)。

 テイン・セイン政権は、汚職撲滅に向けて積極的に動いてきたこともあり、すでにその成果も見えている。ミャンマーの腐敗認識指数のランキングは、年々改善しており、2011年には世界183ヵ国中180位だったのが、2012年には176ヵ国中172位、2013年は157位、そして2014年は156位と少しずつランキングは上昇している。但し、依然として世界的に見ても低いレベルである中で、今後どこまで改善するかが問われている。

 これらの問題は、実際に進出において障害になることに加えて、近年外国公務員贈賄罪に対する国際的な監視が強まる中で、日本における不正競争防止法や、米国の海外腐敗行為防止法(Foreign Corrupt Practices Act)に抵触することになるため留意が必要だ。