リスク6.不動産価格の高騰

 人件費の上昇と同様に、頭の痛い問題がミャンマーにおける不動産価格の高騰だ。ヤンゴンの不動産相場は、シンガポールとほぼ同じ水準といった話も最近聞こえてくる。実際、2014年の日本貿易振興機構(JETRO)によるアジア主要都市の事務所賃料比較を見ると、ヤンゴンのほうが、シンガポールより高い水準にある(図表1-20)。

 政治経済改革の開始以降、海外からの進出ブームが加速する一方で、施設の整った不動産物件が極めて限られていることもあり、オフィスビルや高級コンドミニアム、サービスアパートメント等の価格は急上昇している。ヤンゴンのダウンタウンにあり、ランドマーク的な位置付けであるサクラタワーの賃料は、2010年からの数年で15米ドルから100米ドルまで、一気に6.7倍も上昇した。2015年11月現在においては約70~80米ドル程度と沈静化したものの、依然として高い水準が続いている。

 このように、ヤンゴンの不動産市況は、日本人から見ても高い水準まで跳ね上がっている。この不動産価格の意味するところは何か。

 1つは、現地に進出する際には、近隣諸国と比較して固定費が高い中で事業展開をしなければいけないということだ。加えて、駐在員が住むサービスアパートメントや高級コンドミニアムの家賃も近隣諸国と比較して高い水準にあるため、実際の事業コストに更なる負担としてのしかかっている。

 2つ目の留意点が、不動産価格下落時の、経済全体に及ぼす影響だ。現状このような需給のアンバランスに基づいて、経済規模にそぐわない高値での不動産取引がなされている。その一方で、各地で雨後の竹の子のように、不動産開発の計画が進められている。ある段階で供給が一気に増えて、不動産価格が崩れることになると、ただでさえ脆弱な経済に対して、それなりのマイナスインパクトを及ぼすことが予想される。日本における不動産バブル崩壊後の経済低迷や、最近不安視されている中国の不動産市況と同じような状況が、今後ミャンマーで起こる可能性も否定できない。なお、不動産業界に関する内容は書籍『実践ミャンマー進出戦略立案マニュアル』の第2部の第1章で詳述している。