1ヵ月あたりのドル円相場のボラティリティは2.6%(=9%÷√12)だから、このときの8.4%の下落は3.23標準偏差(=8.4÷2.6)の大幅なものだったことがわかる。
さらに言うと、統計学上、3標準偏差を超えてドル円が下落する確率は0.1%程度なので、このときのドルの下落は1000ヵ月に1回、つまり、80年に1回の事象だったわけだ。
一方、株式のボラティリティは、ドル円に比べて大きい。日経平均などへの投資は、ドル円への投資の3倍近いリスクがあるのだ。
このように、やみくもにいろいろな投資商品に手を出す前に、投資商品のボラティリティを把握し、自分の最大損失額を事前に把握しておけば、ほとんどの大やけどは減らすことができる。
「60歳の1000万円」は
「20歳の22万円」かもしれない
ここまで見てきたリスク・時間・金利の関係を学ぶと、さまざまな金融商品を見る目も変わってくるはずだ。
たとえば、「20歳のときに加入して60歳で無事満期を迎えると、1000万円の返戻金がもらえる生命保険」があったとしよう。40年後、実際に1000万円を受け取ると、たしかに得をしたような気分になるかもしれない。しかし、こんなことで無邪気に喜んでいていいのだろうか?
あなたがいま20歳だとすると、「40年後の1000万円」にはどれだけの現在価値があるか、考えてみてほしい。
40年のあいだにその生命保険会社は破綻するかもしれないし、急激なインフレが起きて1000万円には大した価値がなくなっているかもしれない。また、あなた自身の健康が損なわれたりすれば、「豪華客船での世界一周旅行」のような1000万円の使い道もなくなってしまう。
これらのリスクをすべてプレミアムとして金利に加算した結果、たとえば割引率が10%になったとしよう。1000万円の現在価値はどうなるだろうか?
1000万円の現在価値 → 22万円(≒1000万円÷(1.1)の40乗)
個人の価値観によって割引率の考え方はかなり変わってくるだろうが、このシミュレーションだと「60歳の1000万円」は「20歳の22万円」に等しくなる。現金を手にするのが遠い未来になればなるほど、リスク=割引率が大きくなる分、現在価値は低くなる。40年先に得られるお金ともなれば、その価値は極端に小さくなるのだ。
まだ若い読者からすれば、「いや、それでも1000万円がほしい!」という気持ちが強いかもしれない。逆に、50代以上の読者からすれば、「そんな先のお金などアテにせず、いまの自分のためにしっかり使うべきだ」と言いたくなるかもしれない。