日本流の「おもてなし」が
外国人にウケない理由

 彼らは、おろし金で生姜をするときと同じように、わさびをすり始める。しかしそこで日本人インストラクターから、「円を描くようにすります」と言われると、「おおーっ!」と、どよめきがあがる。

 鮫皮おろしは、おろし金と違い、垂直にわさびを当てたほうが、きめ細かくすることができる。それを指摘されると、また「へー!」と盛り上がる。

 すりおろされたわさびは、マレーシア人にとっては体験したことのない香りと辛みがある。クラッカーに載せて食べると皆びっくりするのだ。

 さらに、わさびは茎に近い部分と先端の部分では、風味が違う。ダイコンなども同じなので、日本人は感覚的にそのことも理解できるが、彼らにとっては驚きだ。実際に違う部位をすりおろして、風味の違いを舌で体験すると、また大いに盛り上がる。

 かくして、わさびすりおろし体験イベントは大盛況のうちに幕を閉じた。筆者は正直なところ、わさびをすりおろすだけの体験がここまでマレーシア人を興奮させることに、意外性を感じた。考えてみれば上記のように、マレーシア人にとっては新鮮な体験の連続なのだが、日本人にとってはそれほど驚くことではないので、「すりおろし体験」という発想がなかなか出てこない。

 この体験会を企画したエージェントの方から興味深い話を聞いた。これは日本の観光業界が抱えている問題だというのだ。

 東京オリンピックを控えて、日本も官民で観光振興に力を入れている。だが、マレーシアのエージェントの観点からいうと、その観光内容(方法)がマレーシア人のニーズと異なっていることが多いという。

 具体的には、日本の観光業者が外国人相手に提供するツアーには、「体験が少ない」というのだ。どこどこに行って、どこどこを見て、お土産を買って…というタイプの旅行があまりに多い。しかしながら、マレーシア人を含めた外国人の多くは、実はもっと「体験」したいと願っているという。

 日本の業者にはもっと「体験」が盛り込まれたツアーを企画してほしい、とそのエージェントは話す。

 例えば今回のイベントのように、「わさびをすりおろして、食べてみる」ことである。決して「わさびを食べる」だけではない。「すりおろす」ことで、彼らはよりわさびについて深く知ることになり、それが大きな驚きと興奮をもたらすのだ。

 今、世界から日本の観光に求められているのは、このような「体験」ツアーだと考えられる。思えば、日本人がこれまで好んできた観光の多くは、「見て、写真をとって、土産を買う」だけのものが多かった。

 日本人にとっては、「○○に行ってきた」という事実の方が、体験よりも重要だったのだ。だからこそ、写真を撮ることと、土産を買うことが必要だった。

 筆者の友人の女性が、フランス西海岸の世界遺産の島であるモン・サン=ミッシェルに行ったときのことだ。島がもっとも美しく見えるスポットを地元の観光案内の人に聞いて、そこに案内してもらった。友人はそこで写真をとった後、「では、島に行きたいので、行き方を教えてもらえますか?」と尋ねたところ、フランス人の案内人は驚いてこう行ったという。

「え、あなた日本人でしょ。ここで写真撮って帰るんじゃないの?実際に島に行きたいなんて、日本人なのに珍しいね」

 この友人のような旅行者も増えているとは思うが、典型的な日本人の旅行の仕方は、やはり「体験」よりも「行ったという事実を写真に収めるだけ」のことが多いらしい。