5億円を投資した「すんごい設備」と
入居者が自由に交流できる「コミュニティ機能」
もちろん、こうした機械は専門知識がないと扱えない。そこで、DMM.make AKIBAは万全のサポート体制を整えている。「テックスタッフ」と呼ばれる、それぞれの得意分野をもつスタッフが、機械の使い方を手とり足とり教えてくれるのだ。なかでも技術顧問の阿部潔さんは「Studioの守護神」と呼ばれ、会員の絶大な信頼を集めているそうだ。
「阿部さんはソニーで主に設計の仕事を33年間やって退職した後に、ここで働きたいと応募してこられたんです。『エンジニアと起業家を育てるこんなすばらしい場所ができるなら、是非自分の経験を活かしたい』と。現在、オーディオアンプをつくるなどのワークショップの設計は、全部阿部さんがやっています。豊富な経験をもとに、的確なアドバイスをしてくださる大事な存在です」(岡島さん)
「Works」の部屋を出ると、次は「Design」の部屋。ここのPCには、航空機や自動車など世界中のメーカーの設計現場で使われている、ダッソー・システムズ社の「CATIA」というソフトウェアが入っている。このソフトウェアは、ワンライセンス何百万円という高価なもので、しかも、個人には販売されていないものである。ダッソー・システムズ社が、起業家を育てるというDMM.make AKIBAのビジョンに共感し、特別にライセンスを発行してくれたのだという。
ほかにも、空中で絵を描くことで3Dモデルがつくれる3次元入力デバイスや、大型プリンターなど、個人や小さなスタートアップではとても手が出ない機材がDMM.make AKIBAには完備されている。すべての機材をそろえるのにかかった金額は、なんと5億円というから、その「本気度」が伝わってくる。
「大企業の設計士やプロダクトデザイナーのなかには、独立したら現在のような環境がなくなってしまうと考え、起業を躊躇している人もいます。そういう方々の背中を押すような場所になればと。ここにくれば、大企業に勝るとも劣らない充実したモノづくり環境があるんです」(岡島さん)
個人や小さな会社では用意できないものの一つが、製品の品質保証をするための環境試験機。テストエリアには、極端な高温や低温、湿度でも製品が壊れないかテストできる恒温恒湿試験機や、電波を遮断するシールドルーム、広帯域オシロスコープなど、さまざまな試験機を用意している。製品を作って、実際に売るところまでをサポートするDMM.make AKIBAならではの設備と言えるだろう。
いかがだろう?都心部にこれだけの設備を備えた、モノづくりスタートアップのインキュベーション施設は画期的ではないだろうか?しかも、すでに述べたように、ここに集ったスタートアップのメンバーが、自由に交流できるコミュニティ機能も充実している。林さんは、「開発に行き詰ったときにこそ、そのコミュニティ機能に助けられる」と強調する。
「ハードウェアって、ソフトウェアに比べてオンラインでは問題点を共有・相談しづらいんですよ。写真を撮ってアップしても、何が原因なのかわからない。だから、フェイス・トゥ・フェイスで相談できる場所が必要なんです。ここならテックスタッフも含め、自分でモノづくりをする人たちが集まっているので、『ここが動かないんだけど』と実際にモノを見せて聞くことができます。問題解決がスムーズになるんです」(林さん)
また、特筆すべきなのは、販路開拓の支援もDMMが全面的にサポートしてくれるという点。全世界に拠点をもつDMMが、入居者がつくったプロダクトの販売支援をしてくれるというのだから心強い。それもあって、施設は大盛況。400を超える個人、40を超える会社が登録をし、施設はフル回転状態にあると言う。
「設立当初から、この賑わいは予測できましたか?」と尋ねると、岡島さんはこう答えた。
「ここを立ち上げる前から、海外ではハードウェアスタートアップに投資するというムーブメントが起こっていて、国内でも少しずつハードウェアスタートアップが生まれつつありました。そして、ウェブサービスのスタートアップは渋谷にコミュニティができていましたが、ハードウェアスタートアップにはそういう場所がないという問題意識を持っていたんです。そこから、彼らが本格的な機材でモノづくりができて、人とつながれる場所を用意しようと考えました。ニーズがあったから、ここをつくったんです。だからこそ、今たくさんの企業様に使っていただけているのは、ある種の必然であると思っています」(岡島さん)
帰り際に、再びコミュニティ・スペースである「Base」に立ち寄ると、多くの人たちが熱心に打ち合わせをしていた。開放的な雰囲気でありながら、その真剣さが伝わってくる。本気で作って、本気で売るという人が集まっているDMM.make AKIBA――。ここから、未来の日本を担うメーカーが生まれる日も、遠くないのかもしれないと思った。
(つづく)