今年(2010年)の夏はどこの企業を訪ねても、話題は「猛暑と円高」であった。猛暑はすでに過ぎ去ったが、「円高の悲劇」はいまも続いている。筆者(高田会計事務所)が、顧問先企業に「上海あたりに事務所を構えようかな」と冗談をいっても、冗談として受け止めてもらえないほどだ。中小企業の現実は、それほどまでに厳しい。
ただし、円高が、中小企業の経営を悲惨な状況に追い込んでいるとはいっても、製造や販売の現場で、政府や日銀の無策を批判する声を、筆者は聞かない。当たり前である。永田町や霞ヶ関などを批判したところで、企業の売上高が増えるわけではないからだ。
学者や評論家がメディアなどを通して、どんなに立派な中小企業支援策を訴えていようとも、現場で実際に働いたことのない人に言われてもなぁ、といったところである。高級なネクタイを締めている彼らが、苦境に喘ぐ中小企業の声を代弁しているわけではないことに注意したい。
ということで、その円高である。
筆者は、機械油のニオイが漂う工場が好きだ。だからだろうか。日中、円高不況で苦しむ中小企業のカイゼン活動に付き合わされて、帰宅の途次でホームセンターに立ち寄り、円高で安値競争に陥ったドッグフードの値札を見ると複雑な気分になる。
こういうときは「これでも健気な愛犬家だぞ」と自分に言い訳することにしている。こう書いておかないと、本コラムを公開した後に顧問先企業を訪ねると、袋叩きにあってしまうからだ。
それにしても、最近の輸入品は安くなったものだ。1年前に比べると、半分近くの値段で売られているペットフードもある。ユニ・チャームの「愛犬元気」と、米P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)の「アイムス」を手にとって見比べたとき、そうだ、次のコラムは両社の比較分析に挑んでみよう、と思った次第である。
とはいえ、開示されている情報はユニ・チャームのほうが圧倒的に多いため、分析対象のメインは同社とし、本コラムの最後でP&Gの経営指標を登場させて、日の丸が、星条旗に「絶対に勝てない理由」を紹介することにしよう。
本当は黒字なのに“赤字”に!?
事実を示せないCVP分析の損益分岐点売上高
最初にユニ・チャームについて、売上高に係る時系列を描いた〔図表 1〕を見ていただきたい。
〔図表 1〕は、筆者のオリジナルのSCP分析(Sale-Cost-Profit)に基づいている。経済学の「利潤最大化条件」を満たす売上高を「最大操業度売上高(赤い線)」、量産効果を最も発揮する売上高を「予算操業度売上高(青い線)」とし、赤と青の曲線に挟まれた領域を「タカダバンド」と呼ぶ。