また、歩き回らないとモンスターが出現しないという設計では、他のパズルゲームのように、連続して何かの作業をするという「没頭感」にも欠ける。昔から、シリコンバレーあたりでは「指先ドラッグ」という言葉があって、人間は高速でキーボードを打ったり、スマホ画面やゲーム機のボタンを連打したりしていると、脳内麻薬がわき出て快感を得るようにできているという。ゲームではないが、ネットの掲示板やチャットにハマるのも、この指先ドラッグの影響だと考えられる。しかしポケモンGOには、この指先ドラッグが湧出する要素がほとんどない。つまり、中毒的にこのゲームにハマる人もそう多くはないだろうと推測される。

 ブームというものは人の生理を狂わせることがある。ブームが去った後で「あれはなんだったんだろう?」「なんであんなものにハマったんだろう?」と多くの人が感じることもある。ポケモンGOもいまはブームなので多くの人が熱中しているが、その熱は長くは続かないものと思われる。そこで、その熱を続けさせるためには何かのイベント的要素が必要になるわけだが、そこに頼るとこれまでの多くのゲームがそうであったように、マニア向けゲームに変質してしまい、課金ユーザーばかりが有利になる。一般の人はついていけなくなってしまうのだ。

「資産の切り売り」と
「新しい価値の創造」は違う

 「ポケモンGOが任天堂を救う」と主張する人もいるが、これも間違いだろう。ニュースでは任天堂などが開発したゲームと報じられているので、ポケモンGOを任天堂オリジナルのゲームだと思っている人も多いかもしれないが、開発したのは「ナイアンティック」という、Googleの社内プロジェクトからスピンアウトしたアメリカのベンチャー企業だ。

 このナイアンティックは、ポケモンGOに先立つ2013年12月に「イングレス」という位置ゲーム(ポケモンGO同様、GPSデータを活用したゲーム)を正式リリースしている。ポケモンGOの基本的なシステムは、このイングレスの流用だ。言ってみればポケモンGOとは、高性能スポーツカーのエンジンやドライブトレーンを流用して、ボディだけを変えて作ったファミリーカーみたいなもので、任天堂はポケモンという世界的人気キャラクターを提供しただけと言っても過言ではない。つまりポケモンGOは、任天堂にとっては「資産の切り売り」でしかないわけで、新しい価値を生み出したわけではない。

 ポケモンGOが証明して見せたことは、「イングレスのエンジンに人気キャラクターを乗せれば、誰でも大ヒットゲームが作れる」ということだ。それは、任天堂にとっては大いなる脅威でもある。たとえば「スター・ウォーズGO」みたいなゲームが出てきたら、どうなるか。少なくとも欧米では完全にポケモンGOを食ってしまうだろう。そのような(任天堂にとっての)致命的な脆弱性がポケモンGOにはある。それが、このゲームが任天堂の救世主にはなり得ない理由である。

 任天堂に限らず、どのような企業も、成長や復活のためには資産の切り売りではなく、「新しい価値の創造」が必要だ。任天堂の場合は、もちろんかつてのファミコンやDSのようなハードウェア回帰、プラットフォーム回帰ではない。任天堂という企業はずっと「娯楽の本質とは何か?」を追求してきた会社だ。「これからのAI時代における娯楽とは何か?」、その問いに対する答えを世界に先駆けて打ち出せるか――。それができたとき、初めて任天堂は「復活」するのだと思う。