上司と部下、知り合い、友人……対人関係を劇的に変える“すごい傾聴”とは?
小倉広
研修講師であり、心理療法家(公認心理師)やスクールカウンセラーである小倉さんは、1年に300回を超える講演、研修に登壇している。「1年先まで予約が埋まっている」講師として、企業などからの依頼が絶えない。
話し手の感情を汲み取るためには、“同感”ではなく、“共感”することが大切だと、小倉さんは解説する。
いまや、ビジネスパーソンのバイブルともいえる、小倉さんの書籍『すごい傾聴』は、小倉さんのわかりやすく丁寧な文章に加え、イラストやレジュメを多用したページ仕立てでとても親しみやすい一冊になっている。
小倉さんは、30代の頃にうつ病を発症し、カウンセリングを受けた。以後、臨床心理学、心理療法を学び、現在は、自らが公認心理師として活動している。
上司が部下の話を傾聴できるようになるには2つの条件があります。
1つ目は、上司自身もネガティブな感情を誰かに聞いてもらうこと。だから、課長は部長に、部長は役員に、役員は社長に、社長は外部のカウンセラーに傾聴してもらってください。ネガティブな感情を吐き出せれば、エネルギーが湧き、今度は自分が部下の話を傾聴できるようになります。また、ネガティブな感情を吐き出すとともに、褒めてもらうことも大切です。上司である自分が褒められれば、部下を褒められるようになりますから。
2つ目は余裕を持つこと。「自分はありのままの姿で愛されている、受け入れられている、必要とされている」という感覚を持つことです。そのためにはどうすればよいか? “ニワトリが先か、卵が先か”みたいな話ですが、1on1で部下の話をしっかり聞くことです。うまく傾聴できると部下から認められた気持ちになって、上司のなかに余裕が生まれます。
私は、社長をしていた時代、いつも厳しい口調で部下を追い込んでいたので、「部下から嫌われているに違いない」と思っていました。それで、自分の会社に居場所がないように感じることもあったのですが、部下と1on1を通してわかり合えたときに、居場所ができた気がして、気持ちに余裕が生まれたのです。それから、1on1での傾聴もうまくいくようになりました。
部下が「あぁ、自分のことをわかってもらえたんだ」と思った瞬間、上司と部下の関係は劇的に変わります。極論を言えば、それ以外は何もいらない。お互いに力がふっと抜けて、エネルギーが湧いてきますから。1on1は部下を育てるためのものだと思われがちですが、実は、1on1で救われている上司がたくさんいます。上司も部下も一緒に育っていく――うまく機能している1on1はそういったものです。