障がい者と企業を結ぶ「ジョブコーチ」の現在形

法定雇用率のアップとともに、企業で働く障がい者が増えるなか、障がいのある人の就労を支援し、職場への定着を行う「職場適応援助者(ジョブコーチ)」の存在が注目されている。「ジョブコーチがいれば安心」と考える企業担当者もいるが、ウィズコロナの社会で解決していくべき課題も多いようだ。一般社団法人 精神・発達障害者就労支援専門職育成協会の代表であり、これまでに、中小から大企業におよぶ3000社以上の障がい者雇用を見てきた清澤康伸氏(医療法人社団欣助会 吉祥寺病院勤務)に、「ジョブコーチ」のこれまでとこれからを聞いた。(ダイヤモンド・セレクト「オリイジン」編集部)

*本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティ マガジン 「Oriijin(オリイジン)2020」からの転載記事「ダイバーシティが導く、誰もが働きやすく、誰もが活躍できる社会」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。

そもそも、職場適応援助者(ジョブコーチ)とは何か?

 日本における「ジョブコーチ」の誕生は2002年(平成14年)。「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づく「職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業」の創設が起点だ。主に障がい者を対象とする「ジョブコーチ」の定義*1 は、「職場に出向いて、仕事の進め方やコミュニケーションなどの職場で生じるさまざまな課題の改善を図るための支援を行う者」となっている。

*1 厚生労働省/「地域の就労支援の在り方に関する研究会(第2次)」報告書から(平成26年3月)

清澤 現在の「ジョブコーチ」の活動は、厚生労働省が定める「職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業」の一環で、助成金*2 が下りるものです。行政のホームページなどの公的表記では、「職場適応援助者(ジョブコーチ)」としているので、ジョブコーチ=職場適応援助者と思われがちですが、助成金の下りる人たちは所定の養成研修を受けて認定を受けた「職場適応援助者」の方々で、そうした方々が「ジョブコーチ事業」をやっているかたちになります。

 ただし、職場適応援助者の研修を受けても「ジョブコーチ事業」の枠の中で就労後の支援を行っていない方もいるのが現状です。職場適応援助者の方々は問題ありませんが、「職場適応援助者」ではない、名ばかりの「ジョブコーチ」も存在します。そういう人たちは「ジョブコーチ」と名乗っていたり (自称)、「就労支援担当」といったジョブコーチを連想させる呼称を持っているので、企業側は「???」となることがあります。「ジョブコーチと聞いていたのに、しかるべき研修を受けていなかった」と、「名ばかりジョブコーチ」に対面してから気づく企業担当者もいます。この「名ばかりジョブコーチ」が国内にたくさん存在していることが問題なのです。きちんとした研修を受けていなくても、誰でも名乗ろうと思えば簡単に名乗れてしまう。ジョブコーチという名前そのものが名称独占ではないのです。

 つまり、ジョブコーチそのものの定義が曖昧なのではないかと感じています。また、職場適応援助者はその名のとおり、「職場適応期」と言われる勤務開始後3カ月以内の支援をメインとしているということも重要です。つまり、厳密には職場定着支援をメインとした就労支援ではないのです。

*2 障害者雇用安定助成金(障害者職場適応援助コース)

 厚生労働省は、職場適応援助者(ジョブコーチ)を「ジョブコーチの種類」として、「配置型」「訪問型」「企業在籍型」の3つに分けている*3

*3 職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業について「ジョブコーチの種類」

清澤 「配置型ジョブコーチ」は、職務分析などの専門知識をきちんと学び、長時間の研修を受けた地域障害者職業センター*4 の職員です。「訪問型ジョブコーチ」は、主に各地域の支援機関(NPO/社会福祉法人/民間企業など)の方々で、「職場適応援助者」の養成研修を受けています。「企業在籍型ジョブコーチ」は「職場適応援助者」の養成研修を受けたうえで、企業に在籍している方たちです。

 訪問型も企業在籍型もその多くが1週間ほどの研修期間で取得できる資格になります。「配置型ジョブコーチ」の枠を広げたもの(最低限必要とされているカリキュラムを凝縮させたもの)が「訪問型ジョブコーチ」であるというのが、私のイメージです。

*4 地域障害者職業センターは、公共職業安定所との密接な連携のもと、障害者に対する専門的な職業リハビリテーションを提供する施設として、全国47都道府県に設置されている。(厚生労働省/地域障害者職業センターの概要から)

清澤 康伸(きよさわ やすのぶ)

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一般社団法人精神・発達障害者就労支援専門職育成協会 代表理事(ES協会)。医療法人社団欣助会吉祥寺病院勤務。東京労働局障害者就労アドバイザー。
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)時代より職場開拓、支援プログラム、就労後の定着支援、定着後のキャリア支援、企業支援などをワンストップで行う医療型就労支援モデルの構築を行う。新しい就労支援の形である清澤メソッドを考案。NCNPを経て現職。これまで10年間で300名以上の精神、発達障がい者の一般就労を実現する。就労プログラム履修者の就労率92.7%、一年後の職場定着率93.0%は国内トップレベル。就労プログラム開始から一般就労までの平均5カ月。自身の就労支援の経験から支援者の人材育成が急務と考えてES協会を立ち上げ、支援者の育成にも力を注ぐ。そのほか、企業、公的機関におけるセミナーや講演、学会発表なども多数行っている。国内における精神・発達障害者の医療型就労支援のパイオニアであり、第一人者。講演、セミナーの依頼はES協会まで。