ソニーやパナソニックが再び世界で戦うために必要な「21世紀の水道哲学」松下幸之助創業の地。今求められる「21世紀の水道哲学」とは(写真はイメージです) Photo:PIXTA

イノベーションを阻害する
本業ではないから切り捨てるという発想

 前回の記事では、パナソニックもソニーも案外創業の理念を正しく受け継いでいるという話をした。その最後に、パナソニックにはぜひ今こそ「水道哲学」を受け継いでほしいとも語った。

 そもそも、イノベーションとはインベンション(発明)とイコールではない。常に新しい技術をゼロから開発すれば、イノベーションが生まれるものではない。むしろイノベーションとは、日本語訳で「新結合」とされるように、新しい組み合わせであって、組み合わせるもの同士は新しくなくてもよい。

 ソニーのビジネスの柱の1つとなっているプレイステーションのゲーム事業も、ソニーミュージック(当時のCBSソニー)の丸山茂雄氏がサプライチェーン改革によって生み出したレコード会社の付加価値創造と、ソニーの久夛良木健氏がもともとは放送局用機器で活用していたポリゴン技術を、新たに組み合わせたイノベーションであった。

 久夛良木氏のポリゴン技術は、ゲーム業界に全く新しいリアリティのある映像を持ち込んだ。しかし、ゲームソフトを開発するのはサードパーティのソフトウェアハウスであり、彼らがソフトを供給してくれなければ、ゲーム機はタダの箱である。

 プレイステーションのもう1つの成功は、それまで旧態依然としていたゲームメーカー、ソフトウェアハウス、おもちゃ問屋、小売店の関係性を改め、かつてファミコン時代に見られた抱き合わせ販売のような、サプライチェーンの一部にしわ寄せが行くビジネスの慣行を改善したことが大きかった。ゲーム機メーカー以外のソフトウェアハウス、流通も含めて、全ての事業者に利益をもたらすサプライチェーン改革をしたことによって、サードパーティがソニーの味方についてくれたのだ。

 ソニーミュージックには丸山学校というソニーミュージック流の経営を学ぶ勉強会があったそうだが、同社のこうしたビジネスの能力もまたソニーグループの大切な資産であり、ソニーグループが全社の資産を上手く使いこなすことが今後も求められる。

「本業ではないから切り捨てる」という発想は、イノベーションを阻害する。ソニーグループの強みは一見シナジーがないように見える、様々な業種の集まりであるところだと、イノベーション研究を本業とする筆者は見ている。