
岡田 充
今年から5カ国が加わった「拡大BRICS」は多極化する世界をリードする存在感が高まる。多くの発展途上国をまとめ、欧米などG7(先進7カ国)中心のグローバルガバナンスを変える可能性もある。統一した理念はなく、加盟国間でも対立があるなど利害・思惑は異なる。米国の指導力低下の穴を埋めるほどになるかどうかはまだ見えない。

台湾総統選は中国が「独立派」と批判してきた民進党の頼清徳候補が勝利した。中国は軍事的威圧や台湾の外交的孤立を図るなどの揺さぶりを続けるとみられるが、「武力行使」は選択肢にはない。あまりにリスクが高く、米中の間でも衝突回避で「一時休戦」が黙約されているからだ。

台湾総統選挙は民主進歩党(民進党)の頼清徳候補を国民党の侯友宜候補が激しく追い上げる。現状では頼氏の「逃げ切り」の構図だが、国民の関心は中国との関係を巡る「両岸問題」よりも経済や格差問題で、それが国民党急伸の背景にある。中国による“選挙介入”があるのかなど、「内外変数」次第で状況は変わり得る。

李克強前首相の急死を受けた中国政府の対応は、社会の不安定化につながらないよう配慮したものだった。不動産不況は深刻だが、中国を「異質な専制国家」視しては習近平体制を見誤る。

日米韓の「安保協力強化」とロシア・北朝鮮の「軍事協力強化」による東西両陣営の“同盟化”は実質の伴わない見せかけの側面が強い。米露が求心力や指導力の弱まりを隠す狙いで演出したものだ。

欧米日の対中国政策で従来の「デカップリング」から過度の中国依存を減らす「デリスキング」が語られる。背景には「新冷戦思考」に与せず「実利重視」のグローバルサウスが世界で重みを増していることがあり、転換が本物になる鍵も握っている。

ウクライナ戦争が長期化する中、「中ロ同盟」復活や「次は台湾侵攻」などの“脅威”が喧伝されるが、誤った認識だ。中ロは対米国で協調を強化するが相互不信は根強く、現行の世界秩序に対する志向も正反対だ。

ゼロコロナ政策への抗議デモは経済成長で国民の政治的な不満を抑えてきた中国共産党の統治に綻びが出たことを示す。今後も高齢化や米中経済デカップリングで成長減速は避けられず習近平体制はいばらの道だ。

習近平総書記の台湾問題での「武力行使」発言は、平和的統一を基本にした従来方針を転換したものではない。「武力統一」を否定しない中国流曖昧戦略ともいえるが、現状では「武力行使」自体もハードルは高い。
