「公共工事や一般の民間工事が減るなかで非常に助かるが、痛し痒しだ」
とぼやくのは、長野県のあるゼネコンの社長だ。
同じような声は、埼玉、新潟、群馬、福岡など他の地方ゼネコンからも聞こえてくる。
前政権の前倒し発注により、2009年に公共事業は一時的に増えた。だが、2010年以降は全国的に減少傾向にある。
頼みの民間需要も2008年のリーマンショック以降は工場建設などが低迷を続けており、昨今は円高による悪影響まで懸念されている。
厳しい環境のなかで “助かる”とは、特別養護老人ホーム(特養)やグループホーム、高齢者専用賃貸住宅(高専賃)といった高齢者福祉施設の工事のこと。高齢化を背景とした高齢者福祉施設の建設需要で唯一伸びているのである。総務省によると、65歳以上の高齢者人口が総人口に占める高齢化率は、30年前の1980年には9.1%だったが、2010年には23.1%(推定値)にも拡大しているのだ。
ただ、そんな“頼みの綱”も、冒頭の言葉のように、「痛し痒し」。高齢者福祉施設は、発注者側が国や地方自治体からの補助金(総事業費の10~80%程度)を得て、建てられることが多く、ゼネコンにとっては二つの“不都合”が生じてしまうからだ。
一つは、安値受注だ。工事の受注は“補助金による事業”という建前のため、公共事業と同様、入札が基本である。そのため価格競争を強いられてしまうのだ。
もう一つは、資金繰りの悪化。通常の工事では、「契約時」の手付金、本格的な工事を始めた際の「上棟時」、工事完成後の「引き渡し時」の3回に分け、それぞれ3分の1の割合で支払うというのが基本だ。
ところが、高齢者福祉施設では、発注者から支払われる工事代金は、建物が完成して、引き渡す時の“後払い”の比率が高い。
複数のゼネコン関係者によると、その比率は発注者によっても異なるが、「テン(契約時10%)、テン(上棟時10%)、パー(引き渡し時80%)もザラ」であり、極端な場合では、引き渡し時の比率が9割以上という物件さえもあるという。
“後払い”が多い理由は、総じて発注者側が国や自治体から補助金を受け取るタイミングが物件の完成時と決められており、工事を請け負う立場のゼネコンとしては顧客である発注者側の都合に合わせざるをえないからだ。
こうした“後払い”が続けば、建設費の立て替えで資金負担が大きくなる。「高齢者福祉施設の工事ばかりが続くと、資金繰りに窮してしまう」(某地方ゼネコン社長)ことは避けられない。
安値受注に資金繰りの悪化、それでも受注を確保せざるを得ないところが、まさに建設業界の厳しい経営環境を象徴しているともいえよう。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本猛嗣)