しかし実際には、TPP反対は国内政治、選挙対策を考えてのものであることが今では明白となっている。貿易赤字や失業問題を想起させるTPPに賛成を示していると、民主党の大統領候補を決める予備選で不利になる可能性があった。ヒラリー選挙対策本部の関係筋によると、ヒラリーは選挙戦術の一環としてTPPに反対を表明しているだけにすぎず、当選後には「支持」に転じるという見方が濃厚だ。

【必読ポイント!】
◆ヒラリー、アジアに旋回す
◇アジアへの旋回という新たな外交ドクトリン

 ここからは、ヒラリーの外交哲学や安全保障政策観を解説していく。ヒラリーはアメリカの外交の司令塔である国務長官時代、外交誌の論文「米国の太平洋の世紀」にてアメリカのアジア・太平洋における方針を示した。その方針とは、中国の軍事的な台頭を睨み、「親中派」が主要だった伝統的な対中政策を離れて、アジアでの「前方展開外交(Forward Deployed Diplomacy)」に舵を切るというものだ。この論文の随所に、日米同盟重視、対中警戒の構えが見られた。中でも着目すべき点は「旋回点(Pivot Point)」という表現である。ここには、テロとの戦いを皮切りに欧州やロシア、中東にばかり向けてきた矛先を、抜本的にアジアに移すという意味が込められていた。

 実のところヒラリーは、政治、経済、軍事的に興隆するアジア・太平洋地域といかに折り合っていくかという課題をこれまでも重視していた。国務長官に就任するとすぐに最初の外遊地としてアジアを選び、日本・韓国・中国・インドネシアを訪問したのも、「アメリカはアジアを見捨てない」という戦略的メッセージを発するためである。

 中国などの新興大国が存在感を増す現在、アメリカを中核とする複数の同盟ネットワークである「ハブ&スポーク」という関係だけでは、もはや新しい安全保障環境に対応できないという危機感が、アメリカ内に広まっている。そこでヒラリーは、日米同盟などの二国間同盟体制を維持しながらも、日本やオーストラリア、韓国との国家同士の横のつながりや、より機動的なネットワークが必要だと主張している。よって、ヒラリー政権が誕生した暁には、このアジアを重視した「アジア旋回」の戦略が、中心的支柱となることは確実といえる。

◇ヒラリーと中国との関係

 もともと、ヒラリーは夫のクリントン政権の頃に、北京で開かれた世界女性会議の場で人権問題の改善を中国に促し、けん制した過去を持つ。ヒラリーはクリントン政権の目玉であった、対中国の人権外交を推進しつつ、他方では米中関係を好転させるという重大なミッションを課されていたのだ。その役割を毅然とした態度で見事に果たしたものの、その後語り継がれるヒラリー伝説は、中国側の「ヒラリー・アレルギー」の源にもなっていった。

 時が移り、2009年にヒラリーが再び中国を訪れたとき、中国は「ヒラリー=反中派」という警戒心を抱いていた。そのため、友好親善を表面では演出しながらも、中国ナンバー2である温家宝首相は、外交的なクギを刺すことを忘れなかった。一方、ヒラリーも、米中戦略・経済対話という二国間交流の枠組みに、外交・安保の要素を持ち込むことで、双方の不信感を払拭しようとしていた。