過去の経験は新たな知識の学習を促進する
今年、生まれて初めて米作りにチャレンジした。近隣に住む、IT企業の社長をしながら有機農業を営む方と知り合いになり、春先に小さな田んぼを貸してもらったのだ。彼にいろいろと教えを請いながら、何とか収穫まで終えることができた。
何しろまったくの未経験なので、さまざまなことを一から覚えなければならなかった。とくに難儀だったのが、農業機械を使いこなすことだ。動かし方をていねいに教えてもらい、頭では理解できたつもりだった。しかし、田んぼのどろどろの土の上では、トラクターも刈り取り機も、なかなか思い通りに動いてはくれない。
それでも、トラクターを左右に転回させる操作はうまくできるようになった。トラクターは、クラッチをつなぐと左右両輪が同じ速度で回転するので、まっすぐ進む。左右どちらかに曲がりたい時には、左用と右用と2つあるブレーキのどちらかを使って、曲がりたい方向の車輪を止めればいい。たとえば左に曲がりたい時には左の車輪をブレーキで止める。そうすれば、右の車輪だけ回り続けるので、だんだん車体が左に向いていく、といった具合だ。
ロバート・ラスムセン 著 蓮沼孝/石原正雄 編著
徳間書店
203p 1300円(税別)
最初にそれをやってみた時、子どもの頃に作ったプラモデルの戦車と同じ動かし方であることに気づき、「なるほど」と思った。それを思い出したことで、トラクターの向きを変えるのだけは、うまくできるようになるから不思議だ。過去に類似した経験があると、新しいことでも早く身につけられるようだ。
本書の著者、ロバート・ラスムセン氏は、世界中で使われている組み立てブロックの玩具「レゴ」発祥の地、デンマークの生まれだ。学校教員から学校長を経てレゴ社教育部門に入社。研究開発部門の統括責任者として数多くの優れた教材製品を世に送り出した。MIT(マサチューセッツ工科大学)発の教育理論「コンストラクショニズム(構築主義)」、およびスイスのビジネススクールIMD発の戦略理論「シリアスプレイ」と、レゴブロックを融合させた社会人向けの組織活性化技法である「レゴシリアスプレイ」の開発を担当した人物でもある。
現在は、自ら設立した、レゴシリアスプレイを世界に広めることを目的とする「レゴシリアスプレイマスタートレーナー協会」の共同代表を務めている。同協会は、レゴ社が世界で唯一公認するコミュニティモデル事業だそうだ。