『ライフ・シフト』が提示する
個人と社会の新しい「モデル」

 『ライフ・シフト』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著、池村千秋訳。東洋経済新報社)という本が話題になっている。著者達はロンドン・ビジネススクールの教授だが、長寿化が進行する前提の下で、個人及び社会がこれにどう対処したらいいのかを論じている。

 ごく大雑把に言うと、先進国の平均寿命は10年当たり2、3年のペースで伸びており、これまでの、個人の人生が教育時代・仕事時代・引退後と3分割された「スリー・ステージ・モデル」が現実に合わなくなっていることと、これに対する個人の人生モデルのあり方、さらに、社会や企業がこの変化に対してどう対応したらいいのかが論じられている書籍だ。

 著者達は、現在の長寿化のペースが続くことを前提とすると、現在の子ども世代は自分の寿命が100歳を超える可能性を十分視野に入れて人生の計画を立てる必要があるという。幸い、今の80歳は、昔の80歳よりも随分元気だが、例えば、65歳で引退して老後の人生を暮らすには、端的に言ってお金が足りないという。

 この本の著者は、資産運用でプラスの実質リターンが上がり、老後の必要生活費を最終所得の0.5倍と見積もるなど、計算の細部が異なるが、筆者が本連載(2016年10月19日付)で書いた「人生設計の基本公式」(「お金の不安を解消する『人生設計の基本公式』はこう使う!」)で計算しても結果とその意味は似たようなものだ。

 なお、筆者が連載に書いた計算式は『ライフ・シフト』の計算よりもシンプルだが、実質プラスの運用利回りを想定して計画を立てるのではない分、より保守的で実用的には無難だ(それでも「インフレ並み」の賃上げと運用は想定されているが)。なぜなら、そもそも「期待リターン」とは予想される平均のリターンであり、起こると想定される事態の半分はそれよりも悪い訳であって、個人の場合は、自分で自分の運用の失敗(ないし不運)をカバーしなければならないのだから(企業や国に頼れる年金基金よりも条件は厳しい)、人生計画は保守的な前提で作成するべきなのだ。