戦後最大の経済事件といわれるイトマン事件の内幕を実名で描き、話題となっている『住友銀行秘史』。著者は住友銀行の元取締役で、現リミックスポイント社長の國重惇史氏。イトマン事件では当事者として権謀術数の最中にいたエリートバンカーだった國重氏に、問題作を上梓するに至った背景などについて聞いた。(「週刊ダイヤモンド」編集部 山口圭介)
──著者では、大阪の中堅商社であるイトマンのメーンバンクだった住友銀行が、暴力団、地上げ屋といった裏社会の勢力に食い物にされた経緯を、銀行の内紛劇を交えながら克明に描いており、銀行業界で物議を醸しています。
イトマンがおかしいと思った最初のきっかけは1990年3月20日。(裏社会と政財界を結ぶフィクサーと呼ばれた)佐藤茂氏らが磯田一郎会長のところに、「イトマン大丈夫ですか」と懸念を指摘しに来たこと。これは大変なことになると感じました。
このころから手帳に記録として詳細なメモを取るようにしました。当時の記録は手帳8冊分になっていて、それを基に物語を組み立てました。
──大手銀行の内幕をこれほど生々しく、かつ実名で明らかにしたのは前代未聞です。反対もあったのでは。
この本を書くことは、事前に誰にも伝えていません。メモには、住友銀行の天皇と呼ばれていた磯田会長、三井住友銀行の初代頭取となる西川善文氏など、主要人物だけで70人以上が出てきます。
実名で出てくるOBは怒っているでしょうが、登場人物からはまだ、反応はありません(取材した10月14日時点)。
出版したそもそものきっかけは、講談社の編集者に口説かれたからです。あるとき、手帳のメモを見せてしまった。すると編集者の声色が変わりました。「世に出すのが責務だ」と。
出版が決まるまでには紆余曲折あって、出すのはやめたいと何度も編集者に訴えました。ただ、編集者も慣れたもので、そのことは取りあえず完成させてから考えましょうとか、私が死んでから出版してもいいからと、説得されてしまいました。