日本では、「ポピュリズム」は「困った現象」という文脈の中で語られることが大半である。しかし、米国人と話してみると、必ずしも「悪」ではないというニュアンスが含まれていることがある。
なぜなら、1800年代に米国で台頭した当初のポピュリズム(人民主義)は、産業界や金融界に金の力で支配されていた政治を、民衆が取り戻すための運動だったからだ。しかし、その動きは二つの潮流に分かれて変化していく。
米ジョージタウン大学のマイケル・カジン教授(歴史学)によると、一つは「民衆」を階級ベースで考え、民族や宗教の相違は重視しないポピュリズムだ。
もう一つは、「民衆」の範囲を狭く定義し、欧州系市民だけが「本物の米国人」であり、彼らだけが米国の恵みを受け取れると主張する人種差別的なポピュリズムである。この動きは1882年に中国人排斥法を可決させ、第2次世界大戦中には日系市民を強制収容所に送り込んだ。
この潮流に、今日のドナルド・トランプ米大統領および彼の支持者はつながっている。トランプ氏の口から出るイスラム教徒への言及は、かつての日系市民への攻撃と「同じ」だと、カジン教授は指摘している(「フォーリン・アフェアーズ・リポート」2016年11月号)。