また、そういう突出した人材には他社からスカウトが来るため、自ら辞めてしまうケースもあります。はじめのうちは世話になった思いや、会社への愛着などがあって、簡単には首を縦に振らないとしても、いったん社長の力量に飽き足りなくなったときには、社長や会社の将来に見切りをつけてしまいます。そこへ好条件で誘いの手が伸べられれば、どうしても気持ちはぐらついてしまいます。
結果として、「いい人材」は残らないうえに、下手をすれば社内を混乱させ、人間関係をぐちゃぐちゃに壊して去っていくことになるのです。
本当に必要な「番頭さん」は
替えがいない
中小企業と大企業が決定的に違う点は、大企業は社員を長いスパンで育成する余裕があるのに対し、中小企業では即戦力が求められるということです。
ただし、大企業は時間とお金をかけて人を育てているように見られがちですが、それは決して中小企業でも活躍できる「いい人材」を育てているわけではありません。
大企業は組織がしっかりしているから教育に時間やお金をかけられるのですが、そこで教えている内容は、大企業の該当部署に必要なスキルだけです。決して多能工を育てているのではないのです。
中小企業では、今日、経理マンに辞められたら、明日から給料を払えないという事態が起こります。社員300名足らずの会社なら、経理部長兼課長が1人、その下に男女社員2人ぐらいが普通でしょう。
そんな陣容で経理部内の仕事をすべて行ううえに、さらに総務や人事、労務管理までこなすのが普通です。そんな人材は、大企業にはいませんし、育ててもいません。
さらにいえば「番頭さん」的な存在があります。学歴こそないものの、総務経理部長として社内外の人間関係の酸いも甘いも知りつくし、社長とはお互いに阿吽の呼吸でやってきた人材です。場合によっては先代、先々代からのつきあいです。
ときには社長の家族の紛争にまで立ち入って相談を受けたり、助言をしたり。さらには社長と社員との橋渡しをして、会社をうまく回してくれる「番頭さん」。長く続いている中小企業には、そんな人がいるものです。