労働市場はバブル期に迫る勢いでひっ迫している。2月の完全失業率は1994年6月以来の2.8%まで下がり、有効求人倍率も1.43倍だ。新卒、中途、派遣とも、売り手市場であることに間違はない。物流など特定の分野で、“人手不足”が深刻化していることは周知のとおりだ。政府は、今のところ「働き方改革」に関する“矛盾”に目をつぶっている。本来なら、働き方改革の推進と同時に、省人化、生産性の向上を通して人手不足に対応する処方箋をセットにすべきだ。その観点が抜けてしまうと、改革は、一部の大企業分野だけでしか進展しないことになる。
深刻化する人手不足
“利益なき繁忙”で終わる
深刻な人手不足が続くと、企業は必要な労働力を確保することが難しくなる。人手に頼った事業拡大は困難だ。それは、中長期的に、わが国の経済の実力=潜在成長率を低下させる可能性が高い
今、人手不足に直面している最大の原因は労働力人口の減少だ。少子高齢化の進展に伴い、総人口の中で実際に働き手になり得る労働力人口の減少傾向は顕著だ。
「アベノミクス」のもとでの景気の好況はバブル期を抜いて戦後3番目の長さになった。 働き手が減る中で景気の回復が続くと、一人あたりの業務負荷が増え、需要はあってもそれに応えられず、売り上げや収益の取りこぼしも出始める。この状況に対応するために、一部業種では経験不問で人材を確保する動きも出ているが、それでも需要に追い付けていない。
また企業の国際展開の進展などによって企業の求めるスキルや技能が高度化し、職務にふさわしい人材が見つからないという問題もある(構造的失業)。
専門知識に加え、語学、ITスキルなど複数の分野での要求水準が高まっている。多様なスキルを備えた人材が不足していることも、人手不足の一因だ。実際に多くの企業が人手不足を意識せざるを得ない状況だ。特に、知名度が相対的に低い中小企業は、働き手を確保するために、大手企業以上の給与水準を提示することが必要になっている。また、一部企業では人手不足のあまり、受けた注文を断らざるを得なかったり、深刻なケースでは、人材が確保できないため“人手不足倒産”に追い込まれたりということが起き始めているという。短期間で働き手を増やすことは困難だから、この状況が続くと、一部の業種ではオリンピック開催に向けた需要に対応しきれるか不安が残る。