「2011年の秋口には住宅の供給不足が起こる。住宅価格は上昇し、新たなマンションブームが到来するだろう」。こう語るのは、住宅評論家の櫻井幸雄氏だ。その根拠となる「4局面理論」と今後の住まい選びについて紹介する。

 住宅評論家の櫻井幸雄氏はこう指摘する。

櫻井氏の提唱する住宅市場の「4局面理論」。家賃相場との乖離がポイントだ。
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 「私の『4局面理論』(右図)でいくと、今年の春、不動産価格がちょうど上昇に転じようとしていたところに地震が起きた。現在は上がりも下がりもせず、横にスライドしている状態だ。しかし、実際に5月から市況は動いており、現在は在庫で対応しているものの、資材不足、建材不足、重機不足は始まっているため、秋口には供給不足が起こる。供給数が減って買い意欲がそれを上回れば、価格は上昇、新たなマンションブームが到来する」

 4局面理論とは新築分譲の値動きを説明するものだが、その動きは中古市場にも影響を与える。新築が供給不足になれば、人は中古に流れるという、補完的な関係にあるからだ。

住宅評論家
櫻井幸雄氏

 また震災後、「耐震性不十分な建物も残る中古住宅は、人気が低迷するのでは」と危ぶむ声もあったが、実際には中古売買の大きな落ち込みはなかった。新築でも中古でも、構造体に手抜きや欠陥があったり、ひどく劣化していれば別だが、耐震基準を満たしていれば関東大震災クラス(震度6強~7)程度の地震には耐える。

 逆に「住宅の質は構造体など見えない部分に大きく左右される」との常識が広まったことで、購入希望者のなかに「質のいい中古」を選ぼうという積極的な意欲が高まっていることは、震災ショックの数少ないプラス要因といえるだろう。

安全な立地を求め
中古の価値が浮上

 震災後の顕著な動きとして、「安全な立地」を求める人が増えたことも挙げられる。首都圏では液状化した千葉県浦安市など、湾岸エリアに大きな影響があった。

 浦安は東京ディズニーランドのお膝元、「住みたい街ランキング」ではつねに上位に顔をのぞかせる人気エリアであり、海沿いの高層マンションに暮らす女性は羨望をこめて「マリナーゼ」と呼ばれる。都内への通勤便もよく、「東京隣区」という位置づけだ。

 海辺に堤防を築き、土砂を流し込んでつくった埋立地だから、大地震が来たら浦安では液状化が起きると予想されていた。

 実際に震災が起きてみると、新浦安を中心とした高層マンション群には建物被害はほとんどなかったが、上下水道などライフラインに大きな被害が出て、復旧までが長引いた。また、戸建ては建物が傾くなど、大きな被害が出た。浦安市が実施した調査(6月24日時点)によれば、全壊17件、大規模半壊1536件、半壊2106件、一部損壊は5057件に及ぶ。

 このことを通じ、一転して「強い地盤」選びの重要性に注目が集まってきた。  

 危ないと再認識されたのは、川の流れをつけかえるなどして、新たにつくられた造成地で、それがどこかを知るには歴史をかなりさかのぼる必要がある。浦安は海だったが、千葉県我孫子市では沼の跡地が、埼玉県久喜市では水田の跡地が液状化した。それを受けて、書店では古地図が売れ、図書館では郷土史資料などをコピーする人が増えている。

 「昔から人が住んでいた土地は安全」だということで、「数々の地震を経て安全が立証された土地を選ぶ」という行動が、改めて中古への関心を押し上げている。