このような慣行があると、社員たちには、小規模ないしは中規模のリーダーシップへの心構えが生まれる。とはいえ、リーダーシップに欠かせない重要な地位に向けて人材を育成するには、シニア・マネジャーの側で働く機会を増やす必要があるが、そのためには長い期間を必要とすることが多い。それは、キャリアの早い段階で、リーダーシップの潜在能力がきわめて高い社員を見極め、その能力を引き出し、育成するには何が必要なのかを具体的に特定することから始まる。

 繰り返すが、このプロセスに魔法などはない。成功している企業のやり方は、驚くほど単純明快である。そのような企業では、若手社員や末端社員がシニア・マネジャーの目にとまるよう、さまざまな努力が傾けられている。

 シニア・マネジャーはその際、潜在能力が高いのはだれか、そのような社員を伸ばすには何が必要なのか、みずから判断する。また、より正確な判断を導き出すために、その時々の結論について論じ合う。

 先に紹介した企業では、優れたリーダーシップの潜在能力の持ち主はだれなのか、どのようなスキルがあるとその能力が開花するのかをはっきりさせたうえで、能力開発の計画に取り組んでいる。

 これは、正式なサクセション・プラン(後継者育成計画)、もしくは幹部候補選抜研修の1環として行われることもあるが、非公式のほうが多い。いずれの場合も、各候補者のニーズに合致した、現実的な能力開発の機会はどのようなものかについて合理的に評価することが重要である。

 リーダーシップがうまく機能している企業では、これらの取り組みにマネジャー層の参加を促すために、リーダーの育成に成功した人を評価し報奨を与えることが多い。

 しかし、ほとんどの場合、このような報奨は正式な給与体系の1部になってはいない。なぜなら、この場合の成果を正確に測定するのはきわめて難しいからである。

 これは、昇進、特にシニア・マネジャーへの昇進にまつわる判断の1要素であり、しかも個人差が大きいようにも思われる。とはいえ、リーダーを育成できるかどうかが将来の昇進を左右すると言われれば、「リーダーシップなど育成できるものではない」と言う人たちでさえ、どうにかしてその方法を見つけようとするものだ。

 このような戦略があれば、強力なリーダーシップを重視し、リーダーの育成に努力する企業文化が生まれてくる。今日、世界に大きな影響力を及ぼしている組織は複雑化しており、そこでは、リーダーシップを発揮する人材がより大量に求められている。そして、リーダーを生み出す企業文化を創出する人材も同様に必要とされている。すなわち、リーダーシップを重んじる企業文化を根づかせることが、リーダーシップの究極の使命なのである。