アメリカでは大統領が変わるたびに、軍事パワーと外交パワーのバランスをどうとるべきか、という議論が起きますが、外交パワーは、軍事パワーよりも、相手国に持続的な影響を残します。日本ができることはたくさんあります。外国との対話を図る、金銭的な援助をする、あるいは直接、相手国の人々、社会、経済に役立つような活動を支援することもできるでしょう。

唯一の被爆国としての日本の役割

佐藤 世界で唯一の被爆国として、日本ができることは何でしょうか。

ハーバードの教授が日本に願う「世界の良心であり続けてほしい」ハーバードビジネススクールの教科書「モラルリーダー」

サッチャー 私は日本が今後も「世界の良心」であり続けることを願います。日本の平和主義が、戦後、アメリカに強制されたものだったことは事実です。しかし、日本は世界有数の経済大国となり、軍事力を増大できるだけの資金や技術を持っているにもかかわらず、平和主義を貫き続けてきました。「どれだけ経済が成長しても平和主義を維持することは可能だ」ということを日本の歴史が証明しているのです。

 戦争責任という点から、日本はよくドイツと比較されます。ドイツは、第二次世界大戦中の軍の行動が誤りであったことを明確に認めているが、日本ははっきりとは認めていないのではないか、と非難する意見もあります。日本が再び他国を攻撃するための軍隊を保有すれば、結局のところ日本は何も学んでいないではないか、と世界から思われるでしょう。

佐藤 北朝鮮情勢が緊張する中、日本も軍隊を持つべきではないかという議論もあります。

サッチャー 世界情勢は刻々と変わりますし、複雑な問題も抱えています。隣国からミサイルが飛んでくるような脅威を経験すれば、そのような可能性を検討するのも理解できます。しかしながら、外交政策によって道を切り開いていく方法はあると思います。最終的に選択するのは、日本の国民の皆さんですが、私は日本がこれからも「世界の良心」であり続けること、そして、軍事力を使わなくとも、世界と友好関係を築けることを示す模範国であり続けることを願っています。

*1:米海軍公式HP:http://www.navy.mil/navco/pages/2001/01pg-017-ph-bush120791.htm
*2 :https://obamawhitehouse.archives.gov/the-press-office/2016/05/27/remarks-president-obama-and-prime-minister-abe-japan-hiroshima-peace

サンドラ・サッチャー(Sandra J. Sucher)
ハーバードビジネススクール教授。専門はジェネラル・マネジメント。MBAプログラムにて必修科目「リーダーシップと企業倫理」、選択科目「モラル・リーダー」を教える。現在の研究分野は、世界経済における企業の信用の構築。大手デパート、フィデリティ・インベストメンツ社などで25年間に渡って要職を務めた後、現職。リーダーシップや倫理的ジレンマを主題とした教材を多数執筆。著書に“Teaching The Moral Leader A Literature-based Leadership Course: A Guide for Instructors” (Routledge 2007), “The Moral Leader: Challenges, Tools, and Insights” (Routledge 2008). 現在、「企業と信用」をテーマに著書を執筆中。
佐藤智恵(さとう・ちえ)
1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。報道番組や音楽番組のディレクターとして7年間勤務した後、2000年退局。 2001年米コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。コロンビア大学経営大学院入学面接官、TBSテレビ番組審議会委員、日本ユニシス株式会社社外取締役。主な著者に『世界のエリートの「失敗力」』(PHPビジネス新書)、『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書)、「スタンフォードでいちばん人気の授業」(幻冬舎)。佐藤智恵オフィシャルサイトはこちら