SCホールディングス代表取締役
松本 智
Photo by Kiyoshi Takimoto

 埼玉県や群馬県、茨城県など首都圏近郊で今、毎月2ヵ所というハイペースで有料老人ホームや高齢者専用賃貸住宅をオープンしている企業がある。

 しかも、入居一時金や利用料はライバル施設よりかなり安い。おまけに、重い病を抱えている高齢者であっても入居をほとんど断らないという新しいタイプの施設だ。

「ヴァティー」という中核企業で介護施設を展開、急成長を遂げているのはSCホールディングスだ。もともとは、東京・新橋を中心に13店舗の和食店を展開するなど、介護業界とはまったく縁がなかった門外漢。だが、それゆえに、業界の常識を覆す底知れぬパワーを武器にのし上がってきているのだ。

体調崩した祖母の受け入れ先探しが
介護参入のきっかけ

 社長の松本智(48歳)は、10代の頃から、会社をつくることばかり考えていたという根っからの起業人気質。大学卒業後も就職はせず、売れ残り品などを安く販売するバッタ屋やジーパン屋など、あらゆる商売を立ち上げては経験を積み、起業のアイディアを練った。

 念願叶って不動産会社を起業したのは25歳のとき。数年間はバブルの恩恵を受け、銀行もおもしろいように資金を貸してくれた。

 毎晩、六本木で飲み歩いていたが、気がついたらバブルが弾け、持っていた不動産すべてを売ってなお、数億円の借金が手元に残ってしまった。

 知り合いは次々に破産し、夜逃げする人も珍しくなかった。松本自身、保証人となった知人が破産し、借金取りに追い回されたりもした。だが、自力で借金を返そうと、歯を食いしばって踏みとどまった。

 借金をようやく返し終わったときにはすでに35歳になっていた。ところがひと息つく暇もなく、今度は不動産不況に見舞われ最悪の時期を迎える。

「もうこの業界は終わりかもしれない」。ふとそう思った松本は、飲食業に軸足を移そうと決意した。2002年のことだ。

 しかし、飲食業界も甘くはなかった。腕の立つ料理人を雇い、「1万円の和食を5000円で提供する」をモットーに始めたが、スタッフと意見が対立し、ある日いきなり、全員が辞めてしまうという出来事が起きる。

「自分と気の合う部下とやっていればよかった不動産事業と、まったく違うことに気づき、以来、気持ちよく働いてもらうにはどうすればいいかを常に考えるようになった」という。