「スキル等を含めた自社の本質的なアセット(資産)」を点検し、それを基点にして、振り向ける先をちょっと「ずらす」だけで、「新たな何かを(無理に)得る」必要はなく、新しい顧客を獲得できる。それが「顧客ずらし戦略」の基本概念だ。ここ数年で業績を劇的に向上させたプロ野球の横浜DeNAベイスターズも、その黒字化プロセスにおいて、何らかの「顧客ずらし」があったと考えられる。(フィールドマネージメント代表 並木裕太)

横浜DeNAベイスターズは「野球を見せる」から離れたことで黒字化した

 日本で最も人気のあるプロスポーツといえば、やはりプロ野球ということになるでしょう。しかしそのプロ野球でさえ、しっかりと黒字経営ができている球団はほんの一握りだと言われています。

 そうした中、ここ数年で業績を劇的に向上させた球団が横浜DeNAベイスターズです。

 ベイスターズもかつては毎年大きな赤字を出していました。ところが、2011年オフにTBSからDeNAへと経営権が譲渡されて以降、業績は右肩上がりで推移。TBS傘下の最終年度にあたる2011年度は売上52億円に対して赤字が24億円という状況でしたが、新体制5年目の2016年には売上が100億円を超え、ついに黒字化を達成したのです。

 そのプロセスにおいて、何らかの「顧客ずらし」があったのではないか。横浜DeNAベイスターズの初代社長として、2011年から約5年間にわたって球団経営の舵取り役を担った池田純氏に聞いてみました。

「野球を見せてやる」ではなく
野球は“つまみ”でいい

 池田氏は、ベイスターズの経営を始めた当初のことをこう振り返ります。

「球団の中には、極端な言い方をすると『野球を見せてやるんだ』といった考え方の人もいたように思います。5000円のチケットを3000円に割引して、『これでプロ野球が見られるなんて安いでしょ?』と。でも球場はガラガラでしたから、その考え方はちょっと違うんじゃないかと私は感じていました」