MicrosoftはモバイルOSから撤退するつもりなのか――Windows 10 Mobile搭載スマートフォンをリリースしてきたHPが将来の計画を中止する模様で、その理由に「Microsoftの戦略変更」を挙げていると報じられているのだ。Bill Gates氏がAndroidユーザーであることが明らかになったいま、撤退が正式に発表されてももはや驚きではない。

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Windows 10 Mobileの実質的なフラグシップ機をリリースしていたHPも戦略を変更か?

グローバルではフラッグシップ的存在だった「HP Elite X3」

 HPのEMEA(欧州、中東、アフリカ)トップのNick Lazaridis氏が英メディアThe Registerに、MicrosoftがWindows Mobileへのフォーカスを弱めると戦略を変更したので、Windows Phoneを継続することは意味をなさないと言った旨を語ったという(https://www.theregister.co.uk/2017/10/04/hp_inc_exec_x3_device_nixed/)。

 HPは2016年のMWCで、Windows 10 Mobileスマホ「Elite X3」を発表した。当時フラグシップのSnapdragon 820を搭載し、有線経由のContinuum機能を利用してPCやノートPCにドッキングするとデスクトップPC風に最大の特徴だった。端末自体も6型ディスプレー、Bang & Olufsenとコラボしたサウンド、4150mAhという大型バッテリー容量などを備える。ビジネス市場を狙うMicrosoftの意向にもマッチしていた。

 Microsoft自体からLumiaブランドのWindows Phoneが出ないなか、Elite x3はWindows 10 Mobileの事実上のフラッグシップと言ってもよかった。Nokia買収でハードウェアベンダーとの関係が難しくなったのちに、Windowsを担いでくれた貴重なOEMでもあった。だが価格戦略もわかりにくく(英国では発売後1年以上経過したあとで値上げしている)、成功しているとは言えなかったようだ。Windows 10 MobileはHPのほかAcer、それにNuAns NEOのトリニティやVAIO、マウスコンピューターなど日本勢からも端末が登場した。

 HPはElite X3のサポートを2019年いっぱい続ける予定で、販売も続けるという。モビリティーソリューション分野への投資は続ける、とBUSINESS INSIDERはHPからのコメントを紹介している(http://www.businessinsider.com/hp-discontinues-elite-x3-windows-10-mobile-phone-2017-10)。

そもそも“違うこと”が失敗の理由?

 モバイルOSの「第3のOS」という言葉が出るたびに思いだすのが、2010年にSymbianのイベントで聴講したマーケティング理論のGeoffrey Moore氏の話だ。

 2007年の”iPhoneショック”によって、麻痺状態に陥ったSymbianに対し、Moore氏は「iPhoneを模倣せよ」と言い放った。要するにスマートフォンでリーダーとなった(Symbianがフィーチャーフォン時代のOSだとして)iPhoneから多くの機能を取り込み真似ることで、iPhoneの優位性を無効化してしまうという戦略だ(特許弁護士が聞いたらびっくりする言葉だが)。

 Symbianのオープンソース化は結果的に失敗となるが、スピードの遅さとプライドが阻害要因の1つであったことは否めない。

 さてこのときは明確に頭角を現していなかったが、2008年に立ち上がったGoogleのAndroidは(Moore氏の話を聞いていたのかと思うぐらいに)、「スピード」と「iOSライク」に徹した。その結果が現在の8割強のシェアだ。今でも「iOSライク」は一部のユーザーにとって重要な要素のようだ。「HUAWEI P9」を好む欧州の女の子(14歳)はiOSライクなインターフェース(テーマ)をカメラとともにファーウェイ端末を選んだ理由にあげ、Samsungは全体としてiPhoneのようには見えないから買いたくないと話をしていた。

 MicrosoftもiPhone登場前からモバイルで戦っており、その違いに自信を持っていたはずだ。確かに独特のタイルUIを好むユーザーはLumiaを選んでいたようだが、Windowsのシェアはなんと2016年第1四半期の0.8%から、2017年第1四半期には0.1%まで下がっている。

Surface Phoneは出るのか?
そもそもSurface事業から撤退か?

 そんな間にもFirefox OSやUbuntuなどが「第3のOS」に入り込もうとしたが、結果は周知のとおり。だが、Microsoftはそもそも本気だったのかという疑問がここで出てくる。

 9月末に出版されたMicrosoftのCEO、Sanya Nadella氏の本「Hit Refresh」では、前任者であるSteve Ballmer氏のNokia買収を間違いだと思ったと振り返っているそうだ。

 Gates氏がFox Newsで“Microsoftのソフトウェアがたくさん入った”Androidを使っていると告白したのは、その直後だ。OSで争うのではなく、クラウドサービスで勝負するというNadella氏の戦略をGates氏も認めているということなのだろう。

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 それにしてもNadella氏の手腕には驚く。大企業のMicrosoftを変えることは簡単ではないと想像するが、気がつけば表面上はMicrosoftは嫌われ役から脱している。9月にあるエンタープライズベンダーの取材をしたときにゲストとして登場したMicrosoftのAzure担当CTO、Mark Russinovich氏は「Microsoftはオープンソースカンパニーだ」と語ったが、もはやそれにも違和感はない。

 気になるのは、以前から噂があった「Surface Phone」はどうなるかだ。“Andromeda”なるコードネームの「Windows Core OS」ベースの端末がリークされているようだが、調査会社であるCanalysのCEOは2019年にSurfaceブランドでのハードウェア事業から撤退する可能性もあると語っている(The Registerなどが報道、https://www.theregister.co.uk/2017/10/04/surface/)。

Windows 10 Mobileはメンテナンスモードに突入?

 と、ここまで原稿を執筆したところ、MicrosoftのWindows experrience担当のトップであるJoe Belfiore氏が、Windows 10 Mobileはサポートは続けるものの、新機能や新ハードの開発に注力しないとツイートした。Windows 10 Mobileは完全にメンテナンスモードに突入したということなのだろうか。


筆者紹介──末岡洋子

末岡洋子

フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている