佐藤智恵氏

佐藤 アメリカは「小さな政府」、日本は「大きな政府」を志向していると言われています。政府が主導して経済を発展させていく仕組みは今も有効なのでしょうか。

セン アメリカと日本で政府の役割の大小を比較してみても、一般的に考えられているほどその差は大きくありません。アメリカは「小さな政府」をめざしているように見えますが、実際のところアメリカ経済に占める政府支出の割合は極めて大きいのです。

 両国の違いは、どの分野に資金を集中して投入するか、です。アメリカは軍事、防衛などには多額の資金を支出していますが、発展途上国の経済開発にはそれほど支出していません。専門的な先進医療には予算を割いていますが、国民全員が恩恵を受けるような公的医療にはそれほど予算を割いていません。高等教育の拡充に多額の資金を投じる一方で、基礎教育の充実のためにはそれほどお金を出しません。

 一方、日本は、公共教育、公衆衛生、社会福祉政策、社会政策などの分野に集中して、予算を割り当てているところに特徴があります。アメリカと比べても、日本はそれほど「大きな政府」を志向していません。少しアメリカよりも大きい程度ではないでしょうか。こうした日本政府の方針は正しいと思います。実際、これまでも非常にうまく機能してきましたし、将来もうまく機能させることができると思います。

 19世紀前半まで、日本は世界の中でもあまり存在感のない国でした。それが21世紀の現在は世界で最も成功した経済と社会を擁する超大国の一つとなっています。日本が多くの課題を抱えていることも事実ですが、日本は世界でも有数の繁栄国であり、自国の人々だけではなく世界の人々を支援できる国なのです。このことを忘れてはならないと思います。

アマルティア・セン (Amartya Sen)
ハーバード大学教授。専門は経済学及び哲学。元ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ学長。ジャダプール大学、デリー大学、ロンドン大学、オックスフォード大学、ハーバード大学にて教授を歴任。1998年ノーベル経済学賞受賞。『自由と経済開発』(日本経済新聞出版社)、『合理性と自由』(勁草書房)、『アイデンティティと暴力:運命は幻想である』(勁草書房)、『正義のアイデア』(明石書店)など多数の著書がある。
佐藤智恵(さとう・ちえ)
1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。報道番組や音楽番組のディレクターとして7年間勤務した後、2000年退局。 2001年米コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。コロンビア大学経営大学院入学面接官、TBSテレビ番組審議会委員、日本ユニシス株式会社社外取締役。主な著者に『世界のエリートの「失敗力」』(PHPビジネス新書)、『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書)、『スタンフォードでいちばん人気の授業』(幻冬舎)、最新刊は『ハーバード日本史教室』。佐藤智恵オフィシャルサイトはこちら