火ぶたが切られた
神戸製鋼争奪戦
10月13日の会見中、メディアからの厳しい追及に時折、いら立ちをにじませていた川崎博也・神戸製鋼所会長兼社長は、神戸製鋼の“救世主”となるはずの人だった。
神戸製鋼といえば、原子力発電を除く四国電力以上の発電量を誇る国内最大級の独立系発電事業者。2017年3月期に、中核の鉄鋼事業が経常赤字に転落する中、電力事業は経常利益130億円を計上する稼ぎ頭になっている。
神戸製鋼は1995年、阪神淡路大震災で神戸製鉄所が被災したのを機に電力事業に参入した。このとき、発電所建設の具体的な地図を描いたのが川崎社長なのだ。
13年4月、2期連続の最終赤字に陥った直後に就任した川崎社長は、懸案の鉄鋼事業にも切り込んだ。就任からわずか2カ月で、発祥の地、神戸市にある神戸製鉄所の高炉の休止を決断。同じ兵庫県の加古川製鉄所に工程を集約し、鉄鋼事業の効率化に動いた。
安定的な収益源の確立と、ジリ貧だった中核事業のてこ入れ──。この川崎社長の“実績”が、皮肉にも神戸製鋼に本質的な課題から目をそらさせることになる。
「鉄鋼、アルミ・銅、建設機械の規模がどれも中途半端で、単独での成長戦略を描けない」(鉄鋼メーカー幹部)。グローバル競争で生き残るために、競合他社との連携を含めた抜本策を講じなければならない時期に差し掛かっても、神戸製鋼は独立路線にこだわった。
その間、ライバルの動きは素早かった。アルミ業界では、国内首位の古河スカイと同2位の住友軽金属工業が「アルミメジャー」を目指して統合し、13年にUACJが発足した。
鉄鋼業界でも02年に川崎製鉄と日本鋼管(NKK)が手を組みJFEホールディングス(JFE)を設立。12年には新日本製鐵と住友金属工業が統合して新日鐵住金が誕生した。両社は神戸製鋼を引き離したが、それでも国際再編が進む鉄鋼業界では、国内首位の新日鐵住金ですら粗鋼生産量で世界4位にとどまる。
だからこそ、業界関係者は今回の神戸製鋼の不祥事の顛末を、固唾をのんで見守っている。「今度こそ、神戸製鋼が自主独立を維持するのは難しい」と、業界再編の機運をうかがっているのだ。