APEC閉幕後、野田佳彦首相は、現地ホノルルで、内外の記者団に、TPP参加問題についてこう述べた。
「各国が求めているものをしっかり把握し、十分な国民的議論を経た上で、あくまで国益の視点に立って結論を得る」
この発言は、出発前(11日)の記者会見で述べたことと同じである。私はこれでよいと受け止めた。
要するに、「交渉参加に向けて関係国と協議に入ることにした」(11日発言)のであり、TPP参加を決めたのではないばかりか、交渉に参加することを決めたわけでもない。
例えて言えば、9ヵ国が談合しているTPPの家のドアを野田首相はノックした。そして、われわれの国益に沿うなら、仲間に入ってもよいと考えていることを玄関口で伝えたのだ。
首相はAPECの場で「TPP関係国との会議もあると思う。可能ならばその意思を伝える」(11日記者会見)と意気込んでいたが、大枠の合意を目指す関係国会議にはオブザーバーとしても出席できず、軒先で立っているという悲哀を味わうことになった。
「全品目が交渉対象」発言をめぐる
日本政府の弱腰な対米交渉
だが、首相のノックを待っていたかのように米国は一転して高飛車に出ている。
カーク米通商代表は、米国との事前協議の対象として、牛肉、自動車、郵政の3つを指摘した。いずれも難題で、短期間には決着することは無理である。
最も気になるのは、日米首脳会談での野田首相の発言をめぐる日米の認識の違いである。
米政府は、野田首相が首脳会談の席で、全品目について交渉するとの発言をしたと発表したが、日本政府は「発表の記述のような発言はなかったと確認された」としている。