バブル時代の経費の使い方は凄まじかった。30代の中堅社員でも、月の接待費枠が500万円とか、大手広告代理店なら20代の若手でもタクシー乗り放題とか。実際、僕も飲み会などで代理店の人間からよくタクシーチケットをもらっていたし、プロジェクトの打ち上げは伊豆の温泉旅館で大名旅行みたいなこともよくあった。大きなプレゼンの前には、代理店の人間がホテルのスイートルームを取って、そこにスタッフを缶詰にして資料をつくっていた。代理店の社員なのに、シティホテルのスイートルームを自分のオフィスにしているヤツもいた。

 年収400万円台のサラリーマンが毎月500万円も接待費を使って飲み食いしていれば、それは当然、世の中がバブルな感じになるわけだが、ではなぜ、今では企業がこのようなお金の使い方ができなくなったのか。その最大の理由は「株主の意識」が変わったからだ。

バブルに不可欠な
余った金が「流れ込む先」

 言うまでもなく、経費とは会社の金だ。バブル時代には、この会社の金を経営者が勝手に使うことができた。というか、使ったもん勝ちの時代だった。今でも鮮明に憶えているが、当時、西武グループ総帥の堤義明氏が、「利益を出して税金を払うような経営者は無能だ」と経済誌で堂々と語っていた。今ならそんな発言をしたら株主総会は大炎上必至だが、当時の堤義明氏は経済界のオピニオンリーダーで、そのような人物が堂々と経費を使いまくれと言って賞賛されていたのだから、社員も経費を使えるワケである。

 念のために言っておくと、堤氏がここで言っている「金を使え」は、飲み食い経費というより、企業は税金を払う金があれば投資しろということなのだが、80年代バブルは土地バブルだったもと言えるので、その投資先もほとんどが土地への投資だった。

 土地バブルが生じた理由もいろいろあるが、最大の理由は「含み資産の発見」だと思う。含み資産というのは、たとえば100万円で買った土地は100万円の資産としてバランスシートに載っているが、実は100億円の価値があるということで、古い企業はこの含み資産を膨大に持っていることに銀行が気がつき、それを担保に金を貸し込んだ。

 逆に言えば、昭和の初期に100万円くらいで買った銀座の土地が100億円の価値になっているのに、昔ながらの商売を続けて土地の価値を活かさない経営者は無能だ、と言われていた時代でもある。というわけで土地バブルが発生し、企業は税金を払う金があるなら土地を買ってビルを建てろ、みたいなことが奨励されたし、それができる経営者が有能とされた。

 しかし、今は株主の意識も変わったので、税金を払う金があるならとっとと払って内部留保金を貯め込んだほうが企業価値は上がる。大企業が膨大な利益を出しても、内部留保金を拡大させるばかりで従業員の給料に反映されないのは、そのほうが株価対策になるからだ。

 ちなみに、大企業が利益を出しても従業員の賃金に反映させないことへの批判が多いが、賃金は基本的に需給関係で決まるものなので、実は業績とはあまり関係がない。仮に、ある企業が必要としている人材が20万円の給料で雇えるとすれば、その企業は20万円を払えば人材を確保できるので、それ以上の給料を払う理由は何もない。

 だから、企業は儲かったら従業員に還元しろという主張は聞こえはいいが、企業側からすれば(株主からしても)理由がない。つまり、庶民の賃金を上げたければ、人手不足状態をつくり出すしかないわけだ。実際に、建築や飲食など、さまざまな業界では人手不足のため、時給は上がっているが、かつてのように社員がバンバン経費を使えるわけではないので、景気回復の実感がなかなか湧かない。

 景気回復感を生み出すためには、企業がバンバン金を使わなくてはならないのだが、現実には内部留保を貯め込むばかりで金を使っていない。だから戦後最長の小泉景気の時も、戦後二番目の長さであるアベノミクス景気でも、バブルは生じない。バブルというものは金が余っただけでは生じず、余った金が「流れ込む先」が必要だからだ。その金が土地に流れ込めば土地バブルになり、IT企業に流れ込めばITバブルになるわけだが、流れ込む先がなければ、金は貯まるばかりなのだ。