ムーター・ケントがザ・コカ・コーラ・カンパニーの指揮を任されたのは2008年7月のことである。それまでは前CEOのネビル・イズデルの下で社長兼COOとして、手腕を発揮していた。CEOに就任すると、彼は、「Vision2020」を掲げ、2020年までに事業を2倍に成長させるという計画を発表した。飽和状態といわれているアメリカ市場においてさえも、意欲的な長期成長路線を取ってきた。内向きで「驕り高ぶった」企業文化を再び若返らせ、コスト削減で浮いた資金をブランド開発に再投資した。

本インタビューのなかでケントは、水資源保護をはじめとする持続可能性への取り組み、顧客とのコミュニケーションを重視する姿勢、〈フェイスブック〉に3300万人ものファンを持つ価値、また名物CEOだったロベルト・ゴイズエタのリーダーシップ・スタイルとの比較などについて語る。

長期ビジョンづくりと飽和市場での再成長

HBR(以下色文字):1980年から会長兼CEOの職にあったロベルト・ゴイズエタが、97年に亡くなりました。それ以降、貴社のCEOの任期はいずれも短いものでした。なぜでしょう。特に経営するのが難しい会社なのでしょうか。

ムーター・ケント
Muhtar Kent
ザ・コカ・コーラ・カンパニー会長兼CEO。1952年、ニューヨーク生まれ。トルコ国籍を持つ。イギリスのキャス・ビジネス・スクールでMBA取得。同社と傘下のボトリング会社に在籍する間に、新規市場の開拓、ボトリング会社との関係構築などに手腕を発揮し、2006年12月に社長兼COOに就任。2008年7月、前任のネビル・イズデル退任に伴い、CEOに就任。会長職への就任は2009年4月である。

【聞き手】
アディ・イグナティウス
Adi Ignatius
ハーバード・ビジネス・レビュー誌 編集長

ケント(以下略):ゴイズエタ氏が亡くなられるまで、当社のCEOの任期は長いものでした。しかし以後、二人のCEOが短期間で立て続けに交代したわけですが、その時期、我々は、成長の足がかりをつかめなかったのです。

 そして私の前任者であるネビル・イズデル氏は、当初から「引退生活から経営に復帰するが、それは限られた期間だけ」と言っていました。彼はコカ・コーラという会社がその魂を失っていることに気づいていました。我々は、会社にもコア事業にも確信を持てなくなっていたのです。我々は驕っていました。ネビルは会社を立て直し、我々を泥沼から救い出したのです。

 2008年にCEOに就任されました。その時に、最優先課題に掲げたものは何ですか。

 2つありました。すなわち、1つは長期ビジョンをつくることであり、もう1つは北米市場でもう一度成長することでした。私は、コカ・コーラとボトリング会社の双方が共有できるビジョン、言わば成功の未来図が必要だと感じていました。

 我々は「Vision2020」と呼んでいますが、これは「10年間で事業を二倍に成長させる」ことを目標にしています。臆病風に吹かれてしまえば無理でしょうが、まず実現できるでしょう。